「ふふっ、あれは凄かったわね。まさか寝ぼすけなあなたが、最後には泣いて命乞いをさせるだなんて。正直なところ、あれを見て今年一番にスカッとしたわ」「え、まさかひょっとして全部見てたの? はあ、ウリドラも視聴制限を考えてくれると良いんだけど」 今や魔導竜はすっかりと映像化魔法を使いこなすようになったからね。 どうやらその時は大変な大盛り上がりをしたらしい。まるでサッカーの名場面のように「おおおおお!」などと女性らがコブシを握っていたとか何とか。 僕としては、逆にそんな光景こそ見てみたいと思うけれど。「不思議とね、あなたのことが誇らしかったの。たぶん皆そうで、ウリドラなんて痛快だと笑い転げていたほどよ」「まあ、そんなこんなで、誰かを支えられるくらいの器量を持ちたいと思いまして」「あら、私を支える必要なんて無いわ……なんて介抱をされている時に言っても説得力がまるで無くて困るわ。そうね、この言葉はまた明日伝えることにするわね」 なんとも楽しい会話だなと思う。彼女の軽口は小気味良く、それでいて深い思いやりを感じるところがある。一緒に部屋で過ごした日々もそうで、互いに伸び伸びと遊び、実に気の休まる時間だった。 その頃よりも、今の彼女はずっと近い。 重ねあう手のように、まるで一部が溶け合ったようにさえ思う。 もう一度、彼女は質問をしてくる。 それは僕らの距離が少しだけ近づいたせいかもしれない。「……最後にひとつ聞きたいわ。あなたのご両親のこと」 ぎくりと身体は勝手にこわばった。 ほんの少し心臓は跳ね上がり、それに気づいたのか小さな手は触れてくる。大丈夫だと手の甲を撫でてくれるのは、胸のうちに何を抱えているのか分かっているよう感じられる。 そして何故か、全て受け入れてくれるようにさえ思う。「ご両親のことは少しだけ、青森のおじいさまが教えてくれたの。いつもあなたの事を心配していて、帰省のときに表情が明るくなったと喜んでいたわ」 もうずっと昔の事だ。 しかし僕の口から誰かに伝えるなど初めてかもしれない。 しばらく撫でられ続けているうち、鉛のように重かった口はようやく動いてくれた。「……うん、おじいさんのおかげで僕はようやく人になれたと言うのかな。それまでおかしかった事にも気づけたんだよ」 そう、あの年月は少しおかしかったのだろう。 一歩離れるだけでそうと気づけるのに、子供というものは親しか見れない。視野は極端に狭く、そして片時も離れまいとする。「親離れという言葉があるのは、それまで親から決して離れないという意味があるのかな。ともかく親に子育ての能力は無く、そして僕も親を信じきっていた」