「ん、興味深い。もしも繋がっているのなら、それは一体なんだろう。少なくとも、互いの世界でそれに気づいている人たちはいないね」 となると誰も知らないような存在、あるいは仕組みがある事になる。 僕が夢の世界へ訪れたのは20年近く前のこと。少なくともそれより前から行われているだろう。「そして、互いの世界へ共通認識を与えられるような存在ね。ほんの少し、わずかなりに影響を与えているのよ、きっと。もしかしたらとても偉い神様かもしれないわ」 うーん、やはり会話する人がいると良いね。 高速道路というのは延々と同じ光景なものだから、わずかながらも眠くなる。僕の場合は「寝ない」と決めたらまず居眠りさえしないけど。 結論の出ない憶測は終わり、そしてなぜかマリーはきょろきょろと車内を見回す。ウリドラは寝入っており、シャーリーも同様だ。 2人きりの朝というのは貴重なせいか、もそりと少女は身を寄せてくる。そしてほんのすこしだけ影が落ち、ぷちゅと柔らかく頬へ触れられた。「おはよう、一廣さん。目覚めるとあなたがいるのは、私はとても好きよ」 うっ、クリティカルヒットというやつか。 どきゅりと心臓に突き立てられたのは、彼女の声、それに吐息だ。女の子の匂いとともに囁かれ、ぼすんと漫画のように顔は熱くなる。 わ、の形に口は開き、そんな様子さえ楽しいのか肩へと触れ、じぃっと紫水晶の瞳で覗きこんでくる。僕よりずっと小さな子なのに、真珠のような歯を覗かせて笑うのは……困ります。 とはいえ、今回ばかりはエルフさんも失敗したようだ。 僕の変化によって目覚めたらしきシャーリーは、ふわりと身体から離れると、己の頬を不思議そうにさする。 まるで「なんですか、いまのは?」という風に小首を傾げられたら、今度はマリーのほうが赤面してしまう番だ。「なっ、なんでもないわっ! ただの朝の挨拶なのっ! 日本では普通なのよ、普通っ!」 うーん、苦しい言いわけだねぇ。とはいえ僕としてはようやく珈琲を飲めるようになったので、とっくに冷えたコップを手にする。 どうやらシャーリーも目覚めたらしく、肌はゆっくりと半透明から濃いものへと変わる。そして「なるほど」と合点したのか、エルフのあごへ指を当て、上向かせてから頬へ「ちう」と音を鳴らした。 ぶっぼ!と飲みかけた珈琲を僕は吐く。 わななきながら、みるみる赤くなってゆくマリー。 そして、すべすべの感触が気に入ったらしく、続けざまの「ちうちう」というキスは、眠気を吹き飛ばすには十分すぎる破壊力だ。「ふああっ……んー、あいかわらず朝っぱらから騒々しいのうー、おぬしらは」 ようやく目覚めたウリドラも、呆れの表情を向けてくる。けれどたぶん、次の標的は君だから。もうすぐ慌てふためくんじゃないかなあ。 やがて車内には「んわあっ!」という悲鳴が轟いたけれど、いやいや、もうすぐ小田原に着いちゃいますよ、幻想世界のみなさん。 そうしたら、すぐに海の見えるドライブコースになるから大変だよ? やはり騒々しくなった車内へ、不思議と僕の頬は緩んでしまった。