「あああああっあああああっはははははははははははははははっ!も、もうくすぐったいいいいいいっ!くすぐった過ぎますうううっひひひひひゃああああああっ!やだやだやだあああああっははははは!いやああああああっははははは!」 子どもたちの指と遠隔操作の筆のくすぐり二重奏に、神來の口からは苦しげながらも可愛らしいメロディが紡がれ続けている。 そんな中、一人だけ輪の中から離れ、おどおどしている男の子がいるのを、ハトは見つけた。『むっ、そこのキミ!どうしてキミはお姉ちゃんをくすぐらないんだ!?』「えっ……だって……お姉ちゃん、とてもくるしそうだよ。なんかわるいよ、こんなの……」 ハトに厳しい口調で言われた男の子は、ビクッと身体を震わせてしまう。『……そっか、キミは優しい子なんだね。分かった。ちょっと待っててくれるかな?』 躊躇している彼を見たハトは、打って変わって優しい声色で語りかけ、『よーし、みんな!一度くすぐりを止めて!少しお姉ちゃんを休ませてあげよう!』 そして、他の子どもたちにくすぐりを中断するよう呼びかけた。「かはあっ!はあーっ!はあーっ!はあーっ!はあーっ!」 くすぐったさが治まり、ようやく一息つくことができると、神來が呼吸を整えていたそのときだった。(聞こえるかな~、神來ちゃん?聞こえたら、頭の中で返事してくれる?) 突然、脳内に声が響き、神來はびっくりしてしまう。(えっ!?あ……あなたは……ランたん、さん!?)(そうだよ。今、キミだけに直接話しかけてるんだ。子どもたちのくすぐりは、どうだったかな~?)(っ!……これも、あなたの仕業だったんですね!この子たちも巻き込んで、こんなことをするなんて、ひどいです!) 神來は、精一杯の怒りを込めてハトを睨みつける。(あはは。怒った神來ちゃんも可愛いねえ。ただ、私としてはもう一押し欲しいんだよなあ)(ま、まだ……!?)(そこの男の子がくすぐってないでしょ?だからさ、神來ちゃん……キミの口から“私をくすぐって”って、頼んでくれないかな?) ランたんが口にしたのは、彼女の想像を超えたミッションだった。(えっ、えええっ!?そ、そんなのイヤです!) そんなこと言えるはずがない!と、神來は首を横に振る。(あ、そう?じゃあ、そこにいるみんなが大変なことになっちゃうけど、良いの?)(っ!?……た、大変なことって、どういうことですか!?)(それはナイショ。ただ、私は神來ちゃんが可愛くて強くて心優しい素敵なヒロインだと信じてるからね。その想いは裏切らないで欲しいなあ~♪)(ひ、ひどい……この子たちにも危害を加えようとするなんて……それでもあなたは、この保育園のスポンサーなんですか!?)(えーっ?スポンサー“だから”どうしようと勝手でしょ?あーあ、神來ちゃんにヒドいこと言われて傷ついちゃったな……そんな態度を取るなら、今すぐここを滅茶苦茶にしちゃおーっと)(まっ、待って下さい!わっ、分かりました!分かりましたから、変なことはしないで下さい!)(ホント?良かった~。やっぱり神來ちゃんは優しい子だ。あ、そうそう。その男の子には脇腹をくすぐってもらってよ。それも神來ちゃんが一番くすぐった~く感じるやり方でねえ~♪) ふてくされた言動から一転してコロッと態度を変え、さらに厳しい条件を付け加えていくランたん。そして、その言葉を最後に、脳内に声は聞こえなくなった。