話の纏まったレイと商人達は、早速これからどうするかの話し合いに入る。 商隊を率いる気弱な商人……トレイディアと名乗った商人は、レイに向かって切り出す。「それで、盗賊を誘き寄せるという話でしたが……どうするのでしょうか?」「そうだな、まずは……セト」「グルゥ?」 レイとトレイディアを始めとした商隊の者達との話し合いがされている間、街道の脇にある草原に寝転がっていたセトが静かに首を上げ、小さく喉を鳴らしながら、自分の名前を呼んだレイの方へと向かってどうしたの? と顔を向ける。「さっきの盗賊達を誘き寄せる必要があるが、そこにセトがいれば向こうも警戒して手を出してこない。だから一旦セトはこの商隊から離れて、奴等に見つからない場所に隠れていてくれ。で、盗賊達が襲ってきたら退路を断つように背後から襲い掛かってくれ」「グルルゥ?」 首を傾げるセトが何を言いたいのかを理解したレイは、小さく頷く。「そうだな。相手が騎兵である以上、後ろをとっても横に逃げられるだけだとは思う。けど、奴等を混乱させることが出来ればそれで十分だよ」 その言葉に満足したのか、セトは上げていた頭を再び下ろして目を瞑る。「で、俺達はここで暫く待機する」「ちょっと待て。何だって急にそんな……」「言っただろう? 盗賊を誘き寄せる為だって。さっきの逃走中に馬車が壊れたと見せかけて、それを修理する為に街道の脇に立ち止まって盗賊達を誘き寄せる」「……分かりました」「トレイディア!?」 他の商人達が渋る中、レイの提案を受け入れる決断をしたのはトレイディアだった。「落ち着こう、皆。どのみち彼がいない状態でアブエロに向かっても、盗賊達に再び襲われる可能性が高い。なら彼の言う通りにして、盗賊達に襲われる心配をなくした上で移動した方が、最終的にはいいと思う」 その言葉に全員が納得した訳ではないだろう。 実際、何人かの商人は不服そうな表情を浮かべているのだから。 だが、それでも商隊の長でもあるトレイディアが決めたことである以上は……と、それ以上の不満は口に出さず、レイの指示通りに馬車を街道の脇へと寄せる。 その様子を見ながら、レイは寝転がっているセトの下へと向かう。「セト、じゃあさっき言った通り、ここから離れて様子を窺っていてくれ。で、盗賊達が襲ってきたら……」「グルゥ!」 分かった、と喉を鳴らしながら寝転がっている状態から立ち上がるセト。 喉を鳴らしながら顔を擦りつけてくるセトの頭を撫でてやると、やがてそっとセトが離れていく。 数歩の助走で翼を羽ばたかせて飛び去って行ったセトの姿を見送ったレイは、街道の脇に止まった馬車へと視線を向ける。 傍から見れば、車体が何らかの故障をしてそれを直しているように見えるだろう。(さて、後はさっきの盗賊団が偵察か何かを出してこっちを見つけてくれればいいんだけどな) そんな風に考えながら、念の為とばかりにレイは馬車の中に入る。 もしも盗賊団の中にレイの顔を知っている者がいたりしたら、折角セトがこの場からいなくなったというのに意味が無いからだ。 自意識過剰か? そんな風にも思ったレイだったが、これまで幾つもの盗賊団を襲撃してきたのは事実であり、同時に盗賊同士の横の繋がりというのも決して馬鹿に出来るものではない。 あるいは、レイが滅ぼした盗賊団の生き残りが他の盗賊団に拾われて……というのも、当然あるだろう。 それを考えれば、自分が表に出るような真似は一切しない方がいい。そういう判断だった。