そう大きめの声で言い残し、両手で頬を押さえながら歩き去ってしまう。 どうしたんだろうと思いながら商品を手に取り、先ほどのカートに戻る。すると黒猫が「やれやれ」と言わんばかりの溜息を吐いていた。「あっ!」 ウリドラの表情を見て、ようやく僕は気づく。 これはつまり……そういう意味だ。 思い返すと、いつも彼女から口づけをされてばかりだった気がする。以前にも海岸で「あなたのほうからして欲しい」と冗談混じりに言われた事はあるが、それと同じ意味なのか。 年甲斐も無く僕まで赤くなってしまうのには理由がある。ひとつだけ伝えていない言葉があったのだ。それは、恋人同士がヤドリギの下でキスをすると、結婚の約束を交わした事になる、という言い伝え。 とはいえカートに入れたものを戻す気にはなれず、それを前脚で掻く黒猫からは「しっかりやりなさい」という瞳を向けられる。 ううむ、いつの間にやら僕の知らないクリスマスになりつつあるらしい。 遅れて心臓もトクトクと鳴り始め、体温はさらに上昇してしまう。彼女がトイレから戻ってくるのはだいぶ後だったけど、おかげで落ち着くことができて助かった。