「まこっち?」セコンドの釜瀬が気の抜けたような声を出す。「そ、そうなんです。夕ちゃんがその人と再戦したいから、今日勝ってAランクに行くって……」守の頭の中は夕姫の言葉で一杯になっていて、試合どころではない様子だ。 そんな守を見た釜瀬は、ため息交じりに更に追い詰める様な事を言う。「それは男だな」 「!?」守は驚きに目を丸くして釜瀬を見るが、自身もまこっちなる人物が男ではないかと思っていたのは事実で、それをセコンドにも言われて困惑する。「守が守っちだから……まこっちは「まこる」か? じゃないな……まこと? そうだ、「まこと」だ! まことに違いない。誠実そうで爽やかなイケメン姿が浮かんで来たぜ」 「な、何言ってるんですか! 夕ちゃんを誑かして誠実でも爽やかでもありません! だいたい人の……」 「恋人奪う奴が誠実じゃないってか?」釜瀬の言葉に守は顔を真っ赤にする。釜瀬は守の反応に満足したのかニヤニヤ笑みを浮かべる。「バ、何いてるんですか釜瀬さん! 僕と夕ちゃんは……」思わず大きな声を出してしまうが、余りの大声に驚いた表情を見せる釜瀬を見てハッっと我に返り、その後は声を低くする。「僕と夕ちゃんはただの幼馴染です! こ、恋人なんて……」 「オウオウそうだったな。ほらマウスピースだ」釜瀬は再びニヤニヤしつつマウスピースを差し出し、守は不満たらたらの体でそれを咥える。「ま、「大好きな」幼馴染を盗られたくなかったら勝つことだな」釜瀬の余計な言葉に守は言われなくてもと思いつつ、試合開始を待つのだった……。