2回目のオーブチョイスが訪れた頃、奧のゲノーモスが、立ち止まって何かをもごもごと呟きはじめた。そのたびに、どこからか石つぶてが飛んで来た。「やばいぞ、三好。ちょっと下がれ!」「り、了解!」三好を俺の後ろに下がらせて、両手に盾を取り出すと、飛礫つぶてをガードしながらまわりを見回した。入り口の方に撤退しようとしたが、すでにそちらにもゲノーモスの群れが回り込んでいる。「撤退しかないが……」「逃げられるような場所は、あそこしかありませんね」そう言って、三好が神殿方向を指さした。ぐずぐすしていたら、そちらもゲノーモスで埋まってしまって、大量の群れの中で孤立するかも知れない。それは絶対に避けたかった。「しかたがない、神殿へ待避だ!」盾を収納した俺は、三好を抱えると、荘厳な作りの神殿に向かって全力で駆けだした。後ろで大暴れしている3匹に向かって、「囲まれる前に引き上げて!」と三好が叫んでいる。いかにヘルハウンドとはいえ、あれだけの物量に囲まれたら潰される。適当なところで、さっさと逃げろよ、お前たち。ゲノーモスの包囲は、俺達を包むように縮まっていたが、俺が神殿の階段を駆け上がる方が早かった。外見はゴシック様式に見えたが、内部はギリシアやエジプト風に柱が多用されていた。後ろから追いすがってくるゲノーモスの群れを尻目に、俺は正面の扉のある場所へと飛び込むと、力任せにそれを閉じた。大きな音を立てて厚い扉がしまると、部屋は完全に闇に包まれた。どうやらヘッドライトは石つぶてにやられたようだった。表から何かが扉に当たる音がドンドンと聞こえてきたが、しばらくすると、それも聞こえなくなった。あたりを見回せば、闇の中に3対の金色の瞳が浮かんでいた。どうやら全員逃げ切ったようだ。「先輩、静かになりましたけど」残念ながら生命探知は、沢山の生き物がそこに留まっていることを示していた。「だめだな。大勢残ってるみたいだ」「大勢いるなら、ここからでたらめに鉄球を撃ちまくってみますか?」「いや、変に刺激してドアを壊されでもしたら事だしな。それは最後の手段ってことにしておこう」そう言っておれは、保管庫の中から、LEDカンテラを取り出してスイッチを入れた。LEDだけに1000ルーメン程度のそれは、後ろの空間を克明に照らし出すには力不足だった。俺は三好に予備のヘッドライトを渡して、自分もそれを身につけた。俺達の前には、細い回廊が、ずっと先まで続いていた。「アイスレム。この先に何かがいないか、少し見てきてくれる?」三好がそうお願いすると、こくりと頷いたアイスレムがてくてくと回廊を進んでいった。流石ヘルハウンド、きっと夜目が利くのだろう。「さて、扉の向こうに行けないんだとしたら、奧に向かってみるしかないか」俺は、小さなLEDランタンを紐で括って、ドゥルトウィンの首に結びつけると、そのまま先行してもらうことにした。しばらく俺の影でガードをしてくれていた関係で、3匹の中では一番俺と仲が良い犬なのだ。日没までにはまだ時間があるだろうが、午後ももう大分遅い時間になっている。俺達は準備を整えると、先行したアイスレムを追いかけて奧へ向かって歩き始めた。*1) バティアン峰