「出かける前に作り方を調べておいたの。美味しく出来たかどうか、あなたには特別に味見をさせてあげましょう」「うむ、それにあやかろう。北瀬よりも先に食せるとは、役得と言うほかあるまい」 エプロンを身に着けてゆくエルフへそう答えると、期待しないでと笑われた。 いつの間にやら料理姿も似合うようになり、日に日に女性らしくなってゆく。冬とはいえ部屋は暖かく、調理場の近くへ椅子を置いたウリドラは、眠気を覚えながら調理を見守る。 板チョコを細かく刻み、生クリームを沸騰直前まで温め、そして良く溶かす。ぐるぐるとかき混ぜ、どこかで嗅いだ匂いだなとウリドラは思う。「うむ、北瀬と同じ香りがする。甘い匂いは普段と異なるが、おぬしらは同じ香りを出せるようじゃな」 褒め言葉なのか何なのか。ふと思いつき、それを言葉にしたに過ぎない。しかしエルフはまんざらでも無いようで、何も答えず笑みだけを返してくれた。 その笑みも似ていると、たぶん本人達だけは気づいていないだろう。 溶けたチョコは氷水で冷やされ、それを程よい大きさへと分けてゆく。初めての菓子調理という事でぎこちないが、大きさや形はなかなかのものだ。 これを冷蔵庫で冷やし、丸く整えると、程よい柔らかなチョコレートになるらしい。「トリュフと言うらしいわ。お手軽で安いから、家で作る人も多いみたい」 冷蔵庫へとしまいながら、エルフは説明をしてくれた。それを聴きながらウリドラは本を閉じる。あまり読まない小説とやらも、こうして少女のそばにいるとなかなかに楽しめた。「しかし、普段から黒猫として近くにおるが、生身で来てもあまり変わらぬな」「え、だってウリドラはウリドラでしょう? どちらも好きよ、私は」 エルフとの距離感も会話も、いつもとまるで変わらない。そういう意味で伝えたが、こちらを見る綺麗な笑みに胸が温かくなる思いをウリドラはした。 バレンタインデーというのは、なかなか良いイベントだ。ひっそりとウリドラはそう思った。