実は、弾き飛ばされたその瞬間から《龍王剣術》を準備し始めれば、黒ファル側がどう足掻こうと《龍王剣術》を発動できてしまうのだ。つまりは、特大ノックバックをバックステップ的に利用する技術。相手のスキル使用後硬直開始とほぼ同時に龍王の準備ができるところがミソである。 そういった罠を用意しながら、素早い攻撃モーションで常に先手を取って戦うことで、黒ファルは完全に無力と化す。当時は、出場者全員がインベントリに必ず一本はレイピアを忍ばせていた。そして皆、それを知っているからこそ、黒ファルを出そうとはしなかった。 もちろん、ここぞという場面で出そうとするやつはいたが……上級者になればなるほど、相手に武器の転換を許さない。そんな暇を与えずに終わらせるというのは、不変の常識だった。「参ったなぁ、そういうことか」 すっかり失念していた。 俺、今、レイピア持ってねえ。 つまり、黒ファルワクチン、使えねえ。「やっぱりなぁ。持ってへんと思うててん。センパイ、あえて強武器使わん人やから」 仰る通り。このうえ強武器なんて使ったら、本当の本当につまらない。だから俺はしばらくミスリルロングソードのつもりだ。 しかし、そうか……レイピアなしで、黒ファルの相手すんのか。 ……いや、面白いか。そうだな、アレしよう。「ラズ」「どしたん?」「“三十一手組”で行く」「……望むところやっ」 三十一手組――黒ファルワクチンの発見以前、対黒ファルの主流とされていた定跡。 黒ファルを後手として、三十一手先までじっくりと間合いをはかりながらの攻防を続け、三十一手先の場面においてなるべく先手有利の状況を作り出すことが目的である。 地道にこつこつポイントを稼ぎながら、100:0よりも51:49を目指そうというスタイル。非常に地味だが、やる価値はある。 ……ラズの黒ファルが六段階強化されているという事実。これはユカリの協力に違いない。敵に塩を送った? 馬鹿を言え、ユカリはそんな性格じゃない。多分、彼女は俺のためを思って、あれを六段階強化してくれたのだ。全く最高な女だ。だったら、めいっぱい楽しむしかないだろう?「――始め!」 審判の号令と同時に駆けだす。 俺の初手は《角行剣術》。 さて、三十二手目、ラズがどれで来るのか、今から楽しみだ。