「……なんかさ」「はい?」「あのときここで、二人で号泣したのが、遠い昔のように思えるよ」「そ、そうですね、もう二か月以上前のように思えます」「だから作者軸で時間を語るのはやめよう」 会話の内容はいつもの俺たちだ。 だけど、お互い幸せそうに笑っている事実は、最初に二人でここに来た時と決定的に違っている。「いろいろあったなあ……」「……そうですね。でも」「ん?」「わたしたちには、必要なことだった。そんな気がするんです」「……」「幸せになるために。どうしても必要な事件だった、って。そう思うのは、いけないことでしょうか?」 琴音ちゃんが舌を出して悪戯っぽく笑う。 俺が、そんなことないさ、と返すと、両手をベンチにつけ、琴音ちゃんは遠くを見つめながら、漏らした。小便じゃないぞ言葉をだぞ。「それまで他人だった男の子と、同じ気持ちで泣いた……あの時、わたしは決意しました」「……? 何を?」 琴音ちゃんの顔が引き締まる。 それを横目で確認した俺は、つい反射的に訊き返してしまうが。「次こそは……あんな気持ちで泣かないように、幸せな恋をしようって」 琴音ちゃんがそう言い切ってから、俺のほうを向いてくる。 思わず見つめあってしまった。 その時の琴音ちゃんは、俺の大事な言葉を待っているかのように思えて。『断られるかもしれない』『からかわれてるだけかもしれない』『また裏切られるかもしれない』 心の片隅に未だ残っていたネガティブ思考が、潤んだ瞳に吸い込まれるかのように、消えてゆく。 瞳に残るのは、映った俺の顔だけ。 ──今しかねえだろ。勇気を絞り出すのはここだ。