ダンジョン? ――夕飯時、プリムラが俺にお願いがあると言う。彼女が知り合った貴族の女性がカメオを探しているらしい。「ユーパトリウム子爵夫人という方なのですが、ダリアへやって来た時にアスクレピオス領の貴族に、あの宝飾のブローチを自慢されて大変悔しい思いをしたという事で……」 宝飾というのは、勿論カメオの事だ。「そのために、あれが欲しいと言うのか」「はい……」 貴族の見栄張り合戦か――実に下らないが。 だが貴族の話をし始めた彼女の顔色が、いまいち優れないような気がする。「ユーパトリウムっていやぁ、お嬢。この領の領主じゃねぇか」「そうですよ」「そうですよって……」「プリムラの実家はダリアのアスクレピオス家とも付き合いがあったからな。アストランティアで走っているドライジーネも彼女の実家マロウ商会で作ってる物だし」「え~? あれってお嬢の実家で作った物だったのか」「そうです」「彼女の家名はドライジーネだからな」 ニャメナは齧っていた肉を口から落として、大声を上げた。「ええ~?! そんな家名もある大店のお嬢なのかよ。なんでこんな所で露店とかやってるんだ?」「なんでだろうなぁ。俺もよく解らんのだが――貴族との婚姻も放り投げてきちゃうし……」「貴族って――呆れたぜ。お嬢、旦那の事は俺に任せて、ダリアへ戻った方がいいんじゃねぇのか?」「そうはいきません」 プリムラがスプーンを止めると、ジロリとニャメナの方を睨む。「ぎゃー! このトラ公やっぱりケンイチの事を狙ってたにゃ!」「旦那の相手は俺様の方が似合いって事よ」「そうはいくかニャー!」「あ~、お前ら煩い」 俺はシャングリ・ラでカメオを検索した。色々と並んでいるが――女性の顔が掘られた大型の物を購入してみた。 カメオではよくあるデザインの物だ。青い石に上品そうな女性の横顔のレリーフが掘られている。 値段は高い――6万円だ。だが、貴族相手ならすぐに元が取れるだろう。 こいつを買って貴族仲間を見返してやりたいと思っているなら、多少高くても買うはずだ。 ポチッとな。「プリムラ、こんなのならあるが」 俺は、テーブルの上に落ちてきたカメオのブローチをプリムラに手渡した。「まぁ! 女性の顔が掘られているなんて」「ほぇ~、まるで生きているみたいだな」 ニャメナが、プリムラの横からカメオを覗きこんでいる。