二人、中庭へと出て、対峙する。「先ず我に礼をせよ。次に互いに礼をせよ。構えよ」 宙に浮いたアンゴルモアが、二人の間に入って、審判の真似事を始めた。 何事かと、タイトル戦出場者たちがギャラリーとして集まってくる。 ざわめきは、一瞬にして広がった。 明らかに、空気が違うのだ。 エキシビション? そのような生半可なものではない。 これは、正真正銘、殺し合いだ。「――始めよッ!」 アンゴルモアの号令で、まずミロクが動いた。 《人化変身》の解除だ。ミロクは瞬時に三面六臂の阿修羅と化し、あんこへと襲いかかる。 同時に、あんこもまた《暗黒変身》を発動し、大きな黒い狼となった。「……!」 ざわり、と。ギャラリーが感嘆の声をあげる。 ミロクが繰り出した技巧は、それほどのものだった。 《銀将抜刀術》の発動に激しい横回転を加え、六本の腕のうちのどれが本命かを抜刀の直前まで体を陰にして隠しながら放つという、工夫の重ねられた一撃。 初見でこれを躱せる者など、まずいないと言ってもよいだろう技だ。 …………だが。「 」 ミロクは絶句する。 他に、様々な結末を考えていた彼だが、今、目の前で起きたこの事実だけは、思わず刀を手放したくなるような怖ろしさがあった。 あんこは、ミロクの渾身の抜刀を――――眼球で受けたのだ。 そして、驚くべきことに……刀が抉ったはずの、あんこの眼球には、傷一つついていない。「狼型時、物理攻撃一切無効」――全ては、暗黒狼のこの特性に尽きる。 ミロクが百人いようが千人いようがあんこには勝てないとセカンドが断言していた理由は、ここにあった。 たったの一手。 一切の手出しをせず、たった一度、攻撃を受けただけで……あんこは、ミロクを戦意喪失させた。 それは、観戦していたタイトル戦出場者たちにとって、あまりにも衝撃であった。 技術で言えば人類でもトップクラスの彼らが、つい感嘆の声をあげてしまうようなミロクの技巧を凝らした抜刀術を、よもや眼球で受け止めるなど……常軌を逸している。