喜色に満ちた雪菜の声。
ベンチから跳ね飛ぶ小柄な身体。
一瞬、ほんの一瞬目を離した隙に。
「お母さん!」
彼女は、探し人を見つけた。
「おお、見つかったか」
おそらく向こうは向こうで境内の外で探し回ってたのだろう。
要らぬ世話を焼いたようで申し訳ない。
こんなにもいい子を育て上げた人を一目見ようと、俺もまた彼女の視線の先へ目を向けようとして。
「..............え?」
見当たらない。
彼女がきらきらと目を輝かせる先。
そこには寂れた遊具と、小さな公園の入り口しかない。
黒髪の美女はおろか、人影などまるで見つからない。
「..............どれ、だ?」
「あそこですよ! ほら、あの入り口から歩いてきました!」
賑やかしい雪菜の声。
指差されるその先に、やはり人影はない。
それどころか、舞い散る粉雪が辺り一面を焦点から遠ざけてゆく。
「色々とありがとうございました、ゾンビさん!」
目の前で頭を下げる雪菜さえ、どこかおぼろげに感じ始めている。
明らかな異常。
夢の世界へ踏み込んだかのような、幻想的な世界。
さながら、雪の妖精のように思える、その可憐な影は、こちらにぺこりと頭を下げてから。
「お名前を聞かせてください! ちゃんとお礼がしたいので!」
快活な声。
現実味を失い始めた視界の中で、しかしなんとか、声だけは絞り出す。