「午前はこれで最後だ。外に出て昼メシ休憩しろー」 俺は5周目を終えた最後の班に休憩を言い渡した。 アイリーさんの十六班とチェリちゃんの四班だけは今6周目を回っている最中なので、後はその2つの班だけ待てば俺も休憩時間だ。 まだかなまだかなーとマジカルファンガスを湧いたそばから瞬殺しながら待っていると、30分ほどで十六班がやってきた。「お疲れさん。昼休憩ね」 彼女たちは「はーい」と朗らかに返事をして、姦しく去っていく。最早レジャー感覚だ。「一緒に食べませんか」と誘われたが、まだ仕事があるのだと言って断った。 それから3分ほどして、四班がやってくる。 ……十六班とは打って変わって、全員が疲労困憊といった表情だった。 否、班長であるチェリちゃんだけは違う。疲労の中に、焦りや怒りなどの負の感情がありありと見て取れた。「昼休憩な。ゆっくり休め」 そう伝えると、四班の面々は安堵するように溜め息をつく。 この時点で、俺は大体の予想がついた。恐らくチェリちゃんが単独で先を急ぐあまり、班員のコンディション管理をないがしろにしているんだろう。 確かに、チェリちゃんと他の9人の実力差は開いているかもしれない。だが、だからこそチェリちゃんには「下の実力に合わせた立ち回り」が必要なのである。上級者が下級者を連れてダンジョンを攻略する場合もそうだ。メヴィオンではこれをキャリーと呼ぶのだが、「上が下に合わせなければ上手くいかない」というのはキャリーの常識だった。 しかし、口で注意したところで彼女が素直に言うことを聞くとは到底思えない。 どうするべきか。俺が悩んでいると、チェリちゃんがおもむろに口を開いた。「もう一周してから休みます」 アホだこいつ……! 俺はあまりのアホっぷりに唖然としてしまった。「チェリさん、ここは休憩した方が」「今、うちの班は1位ではないんですよ? 本当なら休憩したくないくらいです」「ですが、やはり休憩は必要では」「私は特に必要ありません。それに戦場では休憩する時間など一秒たりともありません。まあ、どうしても食事がしたいと言うのなら、歩きながら食べればいいのではないですか?」 班員からは流石に文句があがり、チェリちゃんがそれに毅然と反発する。彼女が第一宮廷魔術師団の序列上位ということもあり、班員はどんどんと委縮していった。「しかし、私たち、もう……」「もう、何ですか? そもそも、私が今負けているのは、貴女たちの――」「セカンド殿!」 そして、最後に、チェリちゃんが禁句を言いかけた瞬間――シルビアのよく通る声が、彼女の言葉を掻き消した。 慌ただしくこちらに駆け寄ってきたのは、高速見回り中のシルビアとエコ。 俺はいつものように腰回りへとまとわりついてくるエコの頭をわっしゃわっしゃと撫でまわしながら、シルビアに声をかける。「お疲れ。こっちでも点呼は済んでるから大丈夫だと思うが、何かあったか?」「いや、そっちについては何も問題ない。だが」「おもいだしたんだってーっ」「思い出した?」 何を?「そうだ、本人に会ったのだ! それでハッキリと思い出した!」 本人に? 会った? 俺がはてと首を傾げていると、俺の後方にいた四班の子たちが俄かにざわついた。 何かと思い、彼女たちの視線を辿ると、そこには……「――久しぶりねっ! セカンド!」「お久しぶりです~、セカンドさん~」 茶髪のくるくる縦ロールでふんわりオカッパのツリ目なじゃじゃ馬お嬢様と、褐色の肌にくすんだ白い長髪のゆるふわ女精霊の姿があった。