白衣に、魔術帽。ムラッティ、気合充分だ。 嬉しいよ。教えた甲斐があった。 何より笑顔なのがいい。 魔術でこんなに楽しめるのは、世界広しといえどお前くらいかもしれないな。「セカンド・ファーステスト、見参」 覚えておけよ。 世界一位の名は、いつだってここにある。 ……寂しくなったら、会いに来な。「叡将――獲れるもんなら獲ってみろ」「……っ……!」「――互いに礼! 構え!」 これからの叡将戦は、【魔術】ではなく【魔魔術】がスタンダードとなるだろう。 それは決して抗うことのできない時代の波だ。 皆、必死こいて追いつくしかない。 追いつけた者だけが、次の波に乗れる。追いつけなかった者は、波に呑まれて溺れ死ぬ。 PvPなんて、その繰り返しだよ。 でもな。「楽しみ方は、人それぞれだ」 当たり前だが、皆、忘れがちなこと。 やめちまう必要なんてない。 思い出させてやるのさ。足元にごろごろ転がっている石ころにさえワクワクしていた子供の頃の気持ちを。 そこまで気を配ってこそ、世界一位に相応しい。「――始め!」 さあ、もう一度、遊ばせてもらおう。 十余年を経て、再び、叡将戦へと【魔魔術】が登場するこの歴史的瞬間を存分に楽しませてくれ。 初手――――《風属性・壱ノ型》、これを自身の足元へと放つ。「!?」 びっくりするのは少し早いぞ、ムラッティ。 これからの一連の戦法、「ぴょんぴょん風」という。 俺が十年以上あたためていた戦法だ。 しかし、魅せるのは、この一度きり。「……っ」 驚くのも束の間、ムラッティはすぐさま気を取り直すと《火属性・壱ノ型》《土属性・壱ノ型》《風属性・壱ノ型》の《相乗》を詠唱し始める。 通常の壱ノ型+α分の詠唱時間で三属性分の壱ノ型を放てるようになるってんだから、この世界の魔術師たちにとってみりゃ反則級だよなあ。「いいぞ、悪くない」 ムラッティは詠唱を完了させ、《風属性・壱ノ型》を足元に撃ち風圧で飛び上がった俺の着地を狙い撃とうとしている。いわゆる「着地狩り」だな。 流石、【魔術】の特性をわかっているやつの判断だ。移動中は詠唱も発動もできない。ゆえに着地狩りが成功しないわけがないと見たようだ。 だが、空中を移動しながら詠唱できるこの方法なら、移動しながらの発動も可能である。要は移動を入力しているかしていないかの差。ムラッティ、そこまでは気付かなかったか?「魔剤んご!?」 意味のわからんリアクション。「マジで」と言いたかったのか? 壮絶な噛みっぷりだ。まあ気持ちはわからんでもないが。 俺が空中を移動しながら詠唱していたのは《風属性・参ノ型》。そして、着地の寸前、更にそれを足元に撃つ。 若干ダメージは喰らうが……壱ノ型の時とは比較にならないほど速く、高く、空中を移動できる。 着地狩りを狙って放たれたムラッティの《相乗》は、俺がまたぴょんと飛び上がることを予想できていなかったようで、見事に外れてしまった。 風属性魔術でぴょんぴょん飛ぶから、ぴょんぴょん風。単純なネーミングだが、やられてみてわかるだろう、なかなか侮れない戦法である。 空中を移動しながら詠唱できるうえ、詠唱陣は見えづらく、移動しながらの発動も可能で、常に移動中のため攻撃は当たり難い。一石五鳥くらいの戦法と言えよう。 ……忘れもしない、初代叡将戦。 サーバー内にて最速で叡将戦出場条件を満たし、零代目叡将を保持していた俺は、その日、その男の挑戦を待っていた。