「――最後まで戦い死することこそ生と見たり。其の方はなんと見る」 若い男の声だった。 襖ごしに、俺へと質問をしているようだ。 ここは、正直に返すとすれば「ちょっと何言ってるかわからない」だが、それだと舐められるかもしれない。なので、俺はそれっぽい返答を考え、口にした。「楽しむこと」「愉快。真、愉快なり」 襖の奥で笑っている。変なやつだなこいつ。「質問してもいいか」「なされよ」 攻守交替、今度は俺が質問する番だ。 謎の男は、快い返事をくれた。なら、遠慮なく。「レイカンとはどんな関係だ?」「…………」 沈黙。 その数秒後、返答がくる。「友」 ……俺は確信した。 こいつ、できる。 それも今までにないくらい。「少なきを交わし、数多を教わった。それまで余は世界を知らぬ空の器であった。あの魔訶不可思議な男のお陰で、余は世界を知るに至った」「それは何年前の話だ」「はて、何十か、何百か。余は時間というものに然程興味はない」「……お前」 生きているということか? ……何百年も?「余の名はミロク。悠久を生きる抜刀の化身。其の方はなんと申す」 やはり……! 二十代目など、嘘っぱち。こいつは初代からずっと同じミロクなのだ! 道理でおかしいと思った。何代にもわたって神格化されるなど、この実力主義の島を思えば不自然極まりないのだから。「俺はセカンド・ファーステスト。世界一位の男」 名乗りを返す。できるだけ堂々と。 ミロクは、俺にさらりと真実を明かしてくれた。 その理由は、なんとなくわかる。 戦いたいのだろう、こいつも。 血沸き肉躍る抜刀合戦を、骨の髄まで味わいたいのだろう。「愉快なり。セカンド、其の方はレイカンと同じ匂いがする」「もう一つ質問していいか」「なされよ」「レイカンをどうした」 …………笑った。 確かに、笑った。 音はなくとも、わかる。 襖の奥で、ミロクが笑った。 そして、ゆっくりと、落ち着き払った声で――「――喰った」「……ッ!!」 瞬間、俺は襖を開け放とうと、一歩踏み出した。 直後、襖を斬り破りながら――刀が姿を現す。「これを受け止めるとは。余の勘に狂いはなかった」 ………………危ねえ。 あと一歩間違えたら、死んでるところだった。 ミロクは襖の奥で《飛車抜刀術》を、俺も襖の手前で《飛車抜刀術》を溜めていたのだ。