はは、は、と彼の引きつった笑いが起きる。 ゴゴゴとせり上がっていくのは石壁であり「なにか言いました?」と杖を手にしたマリーが振り返ってくる。 相変わらず仕事が早いねと感心してマリーに手を振っていたら、がばりと横から襟を掴まれた。「き、北瀬君、いまのなに? 魔法? 材料もなにも無かったのに一瞬で家ができちゃったみたいだけど?」「え、薫子さんから何も聞いてないんです? ああ見えてマリーは一人前以上の立派な精霊魔術師で、土台くらいならすぐ作れますよ」「……ああ見えてって、どういう意味かしら?」 杖を片手にいぶかしむ視線を向けられてしまった。 だけど多くの人が僕と同じ思いをするんじゃないかなぁ。妖精のような可愛らしい外見であり、くるくる表情を変える可愛らしい子が、実は階層主だって翻弄させてしまうほどの実力者だと聞いたらさ。 尚もじいっと薄紫色の瞳から見つめられたけど、隣から大きなため息が聞こえてきたので揃って視線を戻す。「うん、すごい。ファンタジー世界っていうのは、やっぱり私の想像を超えているんだな。そういうことならもっと真面目にとりかかったほうが良さそうだ」「そうですよ、徹さん。みんなで楽しく暮らせる場所を考えるんです。遊び半分ではいけません」 そう奥様からたしなめられて、参ったなと彼は髪を掻いた。 しかし本当に困っているというよりは、想像以上のおもちゃを与えられて、どうやって遊び尽くしてやろうかという表情でもある。 すぐ近くの集会場というか簡素なテーブルに戻ると、考えを整理しつつ彼は口を開く。「たくさんの人が住めるようにしたいって聞いていたけど、ただ住宅を並べるだけではつまらない風景に変わりそうだ」「そうなんです。せっかくなら情緒ある場所にしたいですね」 そう答えると皆もうんうんと頷く。 ちなみに背後にはリザードマンたちが体育座りをしつつ、うんうんと頷いているので少しだけシュールな絵かもしれない。 幸いというべきか、この場には情緒という言葉を分かっている者たちが多い。これまでに和風庭園や温泉宿などで過ごしてきたため、街並みの持つ味わいや文化というものを肌で分かっているんだ。 そんな夢の世界から一番最初に連れ出したマリーが「はいっ」と手をあげてきた。