変な紹介になるが、この黒猫こそ魔導竜……の使い魔であり、青年はというと「夢と現実」を行き来できる稀有な人物だ。名を北瀬 一廣と言い、社会人として働いている。 今はまだ、その能力を得た理由は分かっていない。「ええ、たったいまお友達になったの。でも家まで連れてゆくことは出来なさそう」「彼の住処はここだからね。雨がとても好きな生き物だよ」 ふうんと少女は返事をする。 いつの間にやらカエルは喉をぶくぶくと膨らませており、青年の言うとおり雨を喜んでいるように見える。そして指先を住処へ向けると、カエルはぴょんと帰って行った。 彼らはもう2ヶ月も同じ屋根の下に暮らしている。 いや、夢のなかでも一緒なのだから、その倍は一緒にいる計算になるだろう。 彼と少女の出会いは夢のなかだった。 北瀬 一廣から見ると「夢だと思っていたら異なる世界だった」という事らしく、エルフ族の少女はそこで暮らしていたわけだ。 2人は黒猫――の主人である魔導竜により即死させられ、こちらの現実世界で互いに目覚めてしまった、という経緯がある。 それがきっかけで夢のなかは夢ではなく、異なる世界であることに一廣は気づいた。 とはいえ何か凄いことへ発展する……などという事も無く、互いの世界を満喫すべく、ごくのんびりと平和な時を過ごしている仲だ。 その気になれば他者より有利な点を活かし、のし上がっていただろう。しかし今の生活に満足しているのだから仕方ない。 そしてまた日を重ねるたび2人の距離は近づきつつある。このままだと、いつかぴたりと重なってしまうかもしれないわ、などとエルフがひっそりと思うほどに。「それじゃあ、家で読書でも楽しもうか」「ええ、そうしましょう。文字にも慣れてきたから、今日は私が読んであげる」 少女は意識せず、にこりと微笑んでしまう。 笑うような会話では無くとも、紅茶を飲み、しとしとと降る雨を聞きながらの読書は楽しいだろうと想像したからだ。 手を伸ばすと当たり前のように握られ、そして互いの指は絡みあう。指のあいだを触れられるとくすぐったく、腰のあたりへむずりとした感覚が走った。 ……きっとこれがそうなのだろう。現の世界でも夢の世界でも、少女がまるで不安を覚えない理由は。彼がそばにいることで、不安を覚える間もなく楽しんでしまうのだ。 彼らが歩き出すと黒猫はどちらの傘がより雨を防げるかウロウロし、迷ったあげく2人のあいだを選んだ。 梅雨というのは長く長く降り続ける。しかし、言われていたほど嫌な天気じゃないわ、などとエルフはやはり考えた。 彼らは今日もずっと一緒にいるだろう。 そして遊び尽くした後には、悲鳴轟く古代迷宮へ挑むのだ。