「……俺も、少女を腹パンすることが命だったのに……死にかけの瑠奈ちゃんを助けたとき……うわ言のように、老婆を、呪いを……次の被害者が、出ないように……て頼むんだよ……それ見てから……月にあてられた者は、狂気になるというのに……むしろ、良心が芽生えちゃって……なんか、萎えた…………でも、『仕掛け』終わったから……後は、瑠奈ちゃん次、第……」 仰向けになった腹パン男は、短い呼吸を繰り返すと、二度ばかり痙攣して、口と鼻から血の泡を吐き、絶命した。担任教師は、その死を確認すると、猫を抱えて外に出て、段ボールハウスに火を付けた。宿主の死を皮切りに段ボールの壁は強風によって剥がれ、風に乗った火は瞬く間に燃え広がった。 「あと、4人……いや、5人か……」 暗がりに燃える炎を背に、担任教師は橋の下を後にする。抱えている猫の首輪をよく見ると、消えかけの文字で『るにゃ』と書かれていた。 後日、新聞の片隅に浮浪者の焼死体が発見されたと小さく載った。それがかつての有名な外科医であったことも。不審な点はいくつかあったものの、ただの事故と判断され、とある圧力がかかったことも加わり、捜査は打ち切られた。