「なんだか照れるな……。その、どうだろうか?」「あー……極楽だ……」「極楽?」「天上に上るような気分って事ね」「そ、そうか。恥ずかしいけどやってよかった……。オークションに行く時間になったら起こすからゆっくり寝ていてもいいぞ」「んー……絶景がなあ……」頭の後ろはアイナの生の膝の感触、そして視線の先は夢の花園。いい匂いするし!この状況で寝ろと?ハッハッハッハ!無理な相談だ!下から見上げる双丘なんて滅多に見れるものじゃないからな!ああ、でも今凄く気持ちいいんだ……。歩き回って疲れた体にお風呂の疲労回復効果、そして膝枕の精神的な癒し、これほどの極楽の中眠るのはさぞ気持ちいいことだろう。そして、静寂が訪れる。どちらかが話しかける事も無く、今この時この瞬間を嚙み締めるようにゆっくりとした時間の流れを感じた。このまま夢の世界へ誘われるかのような感覚である。「なあ主君」そんな静寂を破ったのはアイナであった。「んー……?」「少しだけ昔の話をしてもいいだろうか」「いいよ……」「私は、いや私たち三人はだな。生まれは違うが、小さい頃から一緒だったんだ」「そうなのか……」「ああ。師匠、まあ私達の武術の師匠だな。師匠に育てられたんだが、その師匠が厳しくてな……」「ん……」「でも、あるとき突然夜に悲しくなって泣き出してしまったとき師匠が膝枕をしてくれたんだ」「へえ……」「そのときも、こんな風に月明かりの綺麗な夜だった。それで師匠が子守唄を歌って頭を撫でてくれたのが嬉しくてな……。今ふと思い出してしまった」「その歌覚えてるの……?」「いや、途中までしか覚えていないんだ。なにせ小さかったからな」「じゃあ、途中まででいいから聞かせてくれ……」「構わないが……、そのあまり歌は得意ではないんだが……」「いいよ。アイナが覚えてるように歌ってくれれば……」アイナは少し緊張したように、胸に片手を置き、もう片方の手で俺の髪を撫で歌いだした。得意ではない?冗談ではない。もしここがカラオケならば次に歌うのだけは絶対にゴメンなレベルである。澄んだ声、綺麗な音色、親が子を思い優しく抱きしめるような優しい歌。自然と頬が笑顔を作るようなそんな歌。そして俺はそんな優しい歌の中ゆっくりと幸せな気持ちで夢の世界に落ちていった。