「……」 私たちは試験開始への緊張感で黙ったまま、私服から看護学校の制服へと着替えていた。 採用試験の会場である大家さん所有のマンションの管理人室、この半年間、毎週末通ってきた見慣れた場所だというのに今日は重く張りつめた空気で満たされ、室内に響く音は私たち採用希望者が着替えるときの衣擦れの音だけだった。 試験が始まるまであとわずか、もうしばらくすると試験官である大家さんが管理人室へとやってくる。そして、緊張の面持ちで管理人室で試験開始を待っている採用希望者は全部で七人。私はそっと視線を私たちから少し離れた場所で着替えている四人へと向ける。 彼女たちは私たちの所属校の『聖慈医科大付属看護学校』のライバル校である『聖マリア女子医大付属看護専門学校』の看護学生。私たちと同じように大家さんがオーナーとして新設される産婦人科の看護師として採用されることを目指すライバルと言える存在になる。 ただ、ライバルと言っても別に学校同士で確執や因縁があるとか、学生間の関係が悪いというわけではなく、単純にこの地域で『看護学校と言えば?』と聞けば、ほぼ半分になってしまうというほどお互い知られた学校という関係になる。 ライバル校とは言うものの、良い意味でのライバル関係であって、実際学校に来る求人では募集人数に大きな違いは無いし、学校別に採用される人数枠を振り分けるということもないので、個々の努力や実力次第ではこの場にいる応募者全員が採用されるということもありえる。 そういう事情もあって単純に蹴落とさなければならない競争相手というわけではなく、どちらかと言えば同じ目標に向かう戦友のようなもので、私はとにかくこの重いギスギスした雰囲気のまま採用試験になることだけはどうにかして避けたいと考えていた。 だから、私は制服に着替え終わると『よしっ!』っと小さく、ぐっと力を込めて握りしめる。