「これで、アネモネのローブを作ってやろうかと思ってな」「こりゃ、立派な虫糸だねぇ。私にも売ってくれないかい?」「皆の服を作って、余ったらな」「兄さん、やっぱり私を養うつもりはないかい?」「ははは、もう増やすなって言われてるから、無理だな」 婆さんの道具屋を出て、彼女に教えてもらった、服屋に行く。 この世界に既製品は売ってない。全部、新品の注文品か中古かのどちらかだ。 デザインを見せるためのサンプルを置いてある店もあるのだが、そのまま着れる物を売っている店は無い。 元世界のように、SMLなどの標準サイズ等も無いからだ。それ故、普通は自分のサイズに合う中古を買って着る事が多い。 無地でシンプルな物が多く、デザイン性などは望むべくもない。「いらっしゃいませ――ひい!」 店主らしき女性が出迎えてくれたのだが、ベルを見て驚いたようだ。「ああ、俺が主マスターになっているから大丈夫だ。ほら、ギルドの鑑札もついている」 だが、店の中に入るのは少々拙いかもしれない――服に毛がついてしまうからな。 ベルに店の入り口へ待ってくれるように頼むと、店先の床に香箱座りをした。 丁度、玄関から日差しが入ってきているのだが、その影に入るように座っている。 ぱっと見、影と一体化して解らないから置物か何かだと思うだろう。突然動いたら驚く人もいるはずだ。 森猫に驚き顔の店主は、少々胸が開いた派手な色合いのワンピースに石を繋げたアクセサリーをジャラジャラとつけている。 派手な服装で商人をアピールしているのだろう。ダリアのアナマを思い出す。「この糸でローブと服を作ってもらいたい」 アイテムBOXから蜘蛛の糸をだすと、店主に見せた。「虫糸ですか? これは見事な……しかし、糸を紡いでからの注文ですと、値段が跳ね上がりますけど」「構わない。前金を払ってもいいぞ」「かしこまりました、それでは……」「この2人だ」 店内で服を眺めていた、アネモネとプリムラを引っ張ってきて、採寸をしてもらう。