がっふがっふ!(うっま! これうっま! 肉あんま入ってないけど、これうっま!)」「がはは、美味いか! お前は好き嫌いしねえで、何でも美味そうに食うなぁ!」 おっさんが上機嫌で、俺の頭をわっしわっしと撫でる。 今日のメニューはベーコンと野菜モリモリのキッシュだ。 ザクザクのパイ生地の上に、これでもがとぎっしりと具が敷き詰められ、生クリームたっぷりの卵がしっとりとそれらを包んでいる。 オーブンでじっくり焼き上げられ、表面にきつね色の焦げ目がついたそれは、もはや黄金のパイ平原。 パイ平原ってなんだろう。 自分で言ってて意味がわからなくなってきた。 が、それぐらい美味いってことだ。「わんわん!(おっさん! これすげえうめえよ! 特にほうれん草がたまらねえ!)」 「肉や魚は、うまくやれば熟成できるんだが、野菜だけは新鮮なやつが一番うまいからなぁ。ぜんぶ俺が畑で作ってるんだぜ」「わ、わふう!?(す、すげえ! おっさん畑仕事までできるのかよ!)」 完璧超人かよ! どこまでも妥協しない男。 マスターシェフ・ジェイムズ。 憧れるぜ……。「わんわん!(まぁ、俺は食う専門だけどな! おかわり!!)」「やれやれ、おめえは日増しに食う量が増えていくなぁ……」 おっさんはぐるりと肩を回し、キッシュを切り分けに戻っていく。 なんやかんや言いながら、好きなだけ飯を作ってくれるおっさん、最高です。 ヨダレが垂れそうになるのをこらえながら、俺は尻尾をぶんぶん振ってキッシュのおかわりを待つ。 その時だ。「見 つ け た ぞ」 地獄の底から響くような声が聞こえたと思ったら、頭を後ろから鷲掴わしづかみにされた。「来い!」「わ、わふっ?!(そ、その声は、へっぽこ剣士のゼノビアちゃん?!)」