その場しのぎの噓を言えば、この場は丸く収まるかもしれない。 今日一日はロズリアを楽しませてあげられるかもしれない。 でも、きっとそれは長期的な目で見たら、彼女のためにならなくて。 ロズリアのためにも、俺は全てを打ち明けるべきなのだ。 たとえ俺とロズリアの、友達と恋人同士の中間のような、白黒つけない心地よい関係が今日終わるとわかっていても。 彼女が俺に愛想を尽かし、離れていくとしても。 これまでに吐いてきた噓の全てと、これから先にしようと思っている裏切りの全容を話そう。 そう決めたから――。「ロズリアに話さなくちゃいけないことがあるんだ。だから、聞いてくれ。俺は――」「だから、聞かないと――」 子供のように駄々をこねるロズリアに向かって、打ち明けた。「もう一度、冒険者をやりたいんだ」 ロズリアは俺の顔を覗き、目を見開く。「ジンさんが死んで、一度は冒険者を辞めようと思った。でも、半年以上経って。気持ちも落ち着いて。自分のことをきちんと見つめ直せるようになって。やっと、自分の夢に気がついたんだ」 今まで溜めていた感情が、堰を切ったかのように溢れ出る。 一度、想いを口にしたら、言葉はもう止まらない。「ダンジョン探索が。『到達する者アライバーズ』にいた時が。人生で一番楽しかったんだ。毎日が輝いていたんだ。あの夢のような毎日を知ったら、普通の日常になんか戻れない。普通の人みたいな人生を歩んで、人並みの幸せを感じていくなんて嫌だ。だったら、たとえ死ぬとしても、その短い最高の瞬間だけを走っていたい」 あのジンが死んだんだ。 大した実力も持たない俺が冒険者なんか続けても、すぐに命を落とすのがオチだろう。 そんなのは傍から見たら、幸せとは程遠い人生だ。馬鹿げている選択だ。 だけど、夢というのは幸せになりたいから抱くものじゃなくて。 人生の損得を無視してでも叶えたいものだから、夢なのだ。「ロズリアと会う予定を、噓を吐いてまで断ったのも、全部これが理由だよ。冒険者に復帰するために、ずっと修業をしていたんだ。もう危ないことはしないってロズリアと約束していたのに、破っていたんだ」「……それが隠していたことの全てなんですか?」 ロズリアがゆっくりと尋ねる。 彼女を傷つけていることにいたたまれなくなって、俯きながら頷いた。「本当にごめん……」「はあ……そんなことだったんですか……。なんか心配して損しました」「はい?」「わたくしの今までの心配を返して欲しいって言ったんです」 頰を膨らませ、プイッとそっぽを向くロズリア。 その冗談じみた反応にあっけに取られてしまう。「約束を破ったんだよ? 噓を吐いたんだよ? もっと怒らないの?」「ノートくんは怒られたいんですか?」「そういうわけじゃないけど……。俺、真剣な話をしているつもりだったんだけど……」 理解できない状況に頭を搔く。 未だ混乱の最中にいる俺に向かって、ロズリアは人差し指をさす。「わたくしはてっきりノートくんが職場の女の子と付き合って、自分をポイッとしちゃうのかと思ったんですよ。それなのにノートくんと来たら。修業をするためにデートを断っていただけって。肩透かし感満載ですよ」 肩透かし感満載って……。 ロズリアに見放される覚悟までして、身構えていた俺の方が肩透かし感満載なんだけど……。「そもそもノートくんが修業のことばっかり考えているのだって、『到達する者アライバーズ』の時のままじゃないですか。元のノートくんに戻っただけですよ。それをもったいぶって言われても、驚きませんから!」「じゃあ、約束は? もう危ないことはしないってロズリアとした約束を破ろうとしているんだよ?」「ああ、それですか……」 ロズリアは上を向いて、思い出したかのように言った。「あれは元々、ノートくんが冒険者を辞めるって言うから、それだったらわたくしも平穏な生活をしたいなって思っただけでして。冒険者を続けたいのなら、いいんじゃないですか? 再開しても?」「えっ、反対しないの⁉」「別にしませんよ。わたくしも『到達する者アライバーズ』にいた時が一番楽しかったですから。もう一度冒険をしたい気持ちもわかりますし。今の生活も、普通の恋人同士の日常って感じで嫌いじゃなかったですけどね……」 白けた目で見つめてくるロズリア。 その視線に思わず身を引いてしまう。「それはなんかごめん……」「それと、どうして全部事後報告なんですか? 冒険者に復帰するつもりだったこと。修業を始めたこと。なんで相談してくれなかったんですか?」「いや、それは……」「こっちだって、冒険者に戻るには色々と準備が必要なんですよ! いきなり仕事だって辞められないじゃないですか!」「というか、ロズリアまで冒険者に戻ってくれるの?」「何、当たり前のこと言っているんですか」 ロズリアはさらっとした口調で告げる。 彼女自身はあまり気にも留めていないようだが、当然のようについてきてくれるという のはとても嬉しいことだ。