【第六章】帰還 場所はガルアーク王国。クリスティーナとフローラが失しつ踪そうしてから、十日が経過した日の午後のことだ。 リーゼロッテは弘ひろ明あきとの婚こん約やくを打だ診しんしに来た使者のロアナと共に魔ま道どう船せんに乗り、アマンドから王都ガルトゥークを訪れていた。 王都にたどり着いて港で魔道船から降りると、馬車に乗って王城へ向かう。ほんの十分ほどで城の敷しき地ちにたどり着くと、そこから先は徒歩である。 公こう爵しやく令れい嬢じよう二人が並んで歩く姿は実に可か憐れんで、所作も洗練されていた。周囲には護衛や世話役の人間がぞろぞろといて、傍はた目めから見てもかなり華はなやかで目立っていて――、「まあ、リーゼロッテさんよ」「レストラシオンの勇者様と婚約されるって話、本当みたいね」「リーゼロッテさんのお見合い話って、何年も訊きいたことがない気がするけど……」「もしかするのかしら?」 などと、噂うわさ話ばなしがちらほらと聞こえてきた。どうやらリーゼロッテが弘明とお見合いをするという話が城内で広まっているらしい。 いわく、日ひ頃ごろからたくさんのお見合いの申し込みを受けているリーゼロッテだが、実際にお見合いの席を設けることはここ数年一度もなかった。仕事が忙いそがしいという理由を伝えてすべて断ってしまうからだ。 そんなリーゼロッテが数年ぶりにお見合いをするのだという。しかも相手は勇者である弘明であり、お見合いのためにわざわざお城にまで足を運んだのだから、これはもしかするのではないか? だとか……。なんとなく、断りづらい雰ふん囲い気きが漂ただよっている気がした。まさか断らないだろうというプレッシャーを感じる。(みんな好き勝手に言ってくれちゃって) 傍から見ると美しく歩くリーゼロッテだが、その足取りは重い。しかし、目的地は着々と接近し、王族専用の応接室へとたどり着いた。 リーゼロッテ達が訪れると、応接室の前に立つ騎士二人が何も言わずに部屋の扉とびらを開ける。まず足を踏み入いれたのは使者役のロアナで――、「アマンドよりリーゼロッテ=クレティア様をお連れしました」 と、綺き麗れいにお辞じ儀ぎをして報告を行う。「失礼いたします」