20年ほど前。
成井さんは元気が有り余っていた。
きっかけをすり合わせるだけでは満足できず、俳優の芝居に対しても徹底的にダメ出しを繰り返した。
「何やってんだよ!」
「その場で100回言え!」
「音量5倍!」
「オレの言い回しをコピーしろ!」
「頼むから○○○○○!」
(とても書けません。○の中は想像でお楽しみください)
このようなスイッチが入った場合、場当たりの進行は止まる。
止めてしまった俳優は立つ瀬がない。
自分のせいで共演者にもスタッフさんにも迷惑をかけているのだ。
僕らの間ではこのような人間を「場当たりストッパー」と呼んでいた。
『グッドナイト将軍』というお芝居のとき。
最初の出番を終えて袖にはけた瞬間、マイクで怒鳴り声が聞こえた。
「お~か~だ~た~つ~や~!」
僕は袖で「ハイッ!」とデカい返事をし、ダッシュで舞台に戻った。
この瞬間には僕の血の気は引いている。
そんな僕に成井さんは力いっぱい怒鳴った。
「大根役者っ!」
僕は一瞬考えた。
この場合、どう反応するのが正解なのか?
これ以上成井さんの機嫌を損ねることなく進行するためには?
場当たりストッパーにできることは……
僕は全力で「ハイッ!」と返事をし、再びダッシュで袖にはけた。
……なんだ、このやり取り?
「大根役者」と言われて胸を張って大声で「ハイッ!」って返事するって。
でもでも
この選択は正しかったらしく、同じシーンに出ていた上川隆也先輩からも「達也、あれでいい」とお褒めの言葉を頂いた。
これはほんの一例。
いつか機会があれば「そのセリフを100回繰り返せ!」と言われて袖で繰り返している間に自分の出番が来てしまい出トチって成井さんに殺されそうになった話を紹介したいと思う。
……この時点でちょっぴり泣きそうだ。