王都ミルカディアの総督府。ガドーラより派遣された総督ワルダイは、その最上階から街を見おろしていた。「さてスカトンスキィよ。正しき行いとはなんであろうかな?」 横に立つ副官は、いつものように即座に答えた。「悪を討つことでありましょう」「悪を為さぬことが正しさではないのか」「それだけでは不足しておりますな」 スカトンスキィはそっと膝を曲げて続けた。「己を正義の徒たらんと欲するならば、悪を見つけ出してこれを討たねばなりません」「悪があってこその正義と申すか。順序が逆ではないのか?」「やもしれませぬ。しかしこのほうがわかりやすうございます」 ワルダイは口元を歪めた。笑ったようだ。「では清浄なる魂とはなんだ?」「汚れたものを憎む心でありましょうな」「優れた者とは?」「劣った者を蔑む者のことです」 そこでワルダイは視線を部屋の中に移した。「スカトンスキィ。うぬもずいぶんと俗物よな」「わたくしめは、世俗の考えを申し上げているのみにございます」「言いおるの。では正義たる者、そこに悪がなければなんとする?」「悪を作り出して、これを討伐するのです」 ふははは。ワルダイは今度は声に出して笑った。「よいわ。ミランは滅びた。もはや討伐に値する悪ですらない。ならばなんとする?」「憎しみか蔑みの対象となすべきでしょう。ですが、総督は既に手を打っておられます」 そうよな。と応じてワルダイは再び窓外に視線を投げた。 そのずっと遠くの空の下で、亡国の女将軍たちが喜劇を演じようとしている。