越後の春日を経て今津へ出る道を、珍らしい旅人の一群が歩いてゐる。母は三十歳を踰えたばかりの女で、二人の子供を連れてゐる。姉は十四、弟は十二ぐらゐである。それに四十位の女中が一人附いて、草臥れた同胞二人を、「もうぢきにお宿におめづゑちごかすがいまづ「山椒大夫」冒頭こくたびはらからず著なさいます」と云って励まして歩かせようとする。二人の中で、姉娘は足を引き摩るやうに歩いてゐるが、それでも気が勝つてゐて、疲れたのを母や弟に知らせまいとして、折々思ひ出したやうに弾力のある歩附をして見せる。近い道を物詣にでも歩くのなら、ふさはしくも見えさうな一群であるが、笠やら杖やら甲斐々々しい出立をしてゐるのが、誰の目にも珍らしく、又気の毒に感ぜられるのである。