ただ生活排水は水石で浄化してから、川に流す仕様にする。 家と風呂、そして便所の配置は森の中に建てていた時とほぼ同じだ。 後は柵が残っているのだが、それはおいおい立てる事にしよう。 前に柵を作った時は結構苦労したのだが、井戸用に買ったエンジンドリルがあるからな。 あれで杭の穴を掘って差し込めば良い。もう使わないからアイテムBOXの肥やしになるかな? ――と思ったが意外と使えるぞドリル。 俺が便所の設置を調整していると――家の右側、暗い森の影になっている茂みがガサガサと動いている。「なんだ?」 俺はアイテムBOXからクロスボウを取り出した。矢は既に装填済みだ。「お~い! ベルか?」 俺がクロスボウを構えながらゆっくりと近づいた――。「ニャァァァァァ!」「うわぁぁぁぁぁ!」 突然、黒い生き物が俺に飛びかかってきた。危うくクロスボウを撃ちそうになったのだが、聞き覚えのある声で引き金から指を離した。「酷いにゃぁぁぁ!」 俺に飛びかかってきたのは、黒い毛皮を着て背中に弓を背負った獣人のミャレーだった。「お前かよ! 危うくクロスボウ――いや弩弓で撃つところだったぞ!」「酷いにゃ! 黙っていなくなるなんてにゃ!」「どうやってここを見つけたんだよ」「臭いを辿ってきたにゃ。ケンイチの使う変な油の臭いと森猫の臭いにゃ」 油ってのは軽油代わりに使っている改質白灯油とかバイクの混合燃料の事だろう。「ええ? マジか――それで解るなら、絶対に獣人から逃げられないじゃん」「狙った獲物は逃さないにゃ~」 ミャレーの目がキラリと光る。「俺が延々と川を歩いたらどうだ?」「上流か下流に走ったら絶対に岸に上がるから、そこからまた追えば良いにゃ」 水の中なら臭いを追えないだろうと思ったが、さすが狩りのプロだ。動物ならそれで撒けるかもしれないが、獣人には知恵があるからな。 そう簡単には逃げられない。計算や読み書きは出来ないが、狩りや戦闘にステータスを全振りしているような連中だ。