「じゃあこっち、トンコツね。外人さんはみんなこれにやられてるから。絶対にハマるから食べてみて」「あ、やっと僕の分が来……」 わしり、とマリーとウリドラの手にどんぶりは掴まれて、少しだけ僕の頬は引きつった。まずい、嫌な予感がする。外国人キラーと呼ばれたトンコツを、彼女らは残してくれるだろうか、などという危険アラームが頭のなかで鳴り響く。「あっ、ごめんなさい、つい……」「い、いいんだよ、順番にひとくちずつ試してみたらどうかな?」 ついに来てしまった、トンコツラーメン。 先ほどの店員さんの言葉は、嘘や冗談などではなく真実だとすぐに分かるだろう。 その真っ白なスープは、豚の骨をミルクのようになるまで煮詰めたものだ。さらりとした口当たりなのに、喉を通るときには深いコクを伝え、味覚中枢を思いきり刺激してくる。 これがまた、見た目と違って優しい。 豆乳かと思えるほどクリーミーで、とろりとした優しさに舌はもうメロメロだ。「あー、だめ、だめ、これは駄目な味……。顔がとろんとしちゃうわ」「うぬうっ、これは……! ま、まさか、いくら食べても飽きが来ない、じゃと!? 遊びに来たつもりが、とんでもないお宝を見つけてしもうたぞ!」 うん、さっき「ひとくちだけ」ってちゃんと言ったよね? 僕にしては珍しくウリドラをつねりたい気持ちで一杯になったけど、マリーを挟んで向こう側にいるから手を出せないぞ。 ん、待てよ、まさかこの配置は……! ・マリーのおねだり → 僕は許してしまう ・ウリドラに回される → 僕は手を出せない という、高度な戦術的配置になっているのかな?? すると席を選んだ時点で、僕は負けていたのだろうか。 にやーっと底意地の悪い笑みを浮かべるウリドラだが、ひょっとして最初から罠を敷いていた!? まさか、ずっと彼女の手の上で踊らされていたとでも言うのか!「あ、それじゃあ替え玉をいただけますか?」「悪いねぇ、うちはやってないんだわ」 ああ、そうですかー……。 仕方なく、僕は泣く泣くネギラーメンを追加注文することにした。 静かな攻防戦はしばらく終わらず、マリーが「おなかいっぱい」と言ってくれるまで続くことになった。