「この木の実が原料なのですが。とても栄養があり、薬としても利用されています」 調理長が紙袋からカカオを取り出すと、口に入れた。「こ、これは、単体でも苦いですな――しかし、サクサクとした歯ごたえとコクがある。これを、あのような洗練された菓子に昇華するとは、これを作り出した者はただ者ではない」 そういわれれば、チョコは誰が作ったんだろうな。聞いたこともないな。どこかの原住民が飲んでいたみたいな話は何かで読んだが。 料理人達が円陣を組んで、あーでもないこーでもないと、会議が始まってしまった。「ケンイチ! 私も食べたい!」「私もですわ」 アネモネとプリムラからチョコレートのリクエストだ。 同じゴ○ィバのチョコレートで、ちょっと小さめな箱を買う。再び現れた金色の箱に王女が呟つぶやく。「この箱は紙か? その上から金箔を貼り付けたのか? たかが菓子の箱に、この造りは凝り過ぎであろう」「王侯貴族様に喜ばれるでしょう?」「その通りじゃが……この箱だけでも欲しがる者は多いじゃろうの」「ふあぁぁぁ、甘くて美味しい……」「なんという官能的な香りと甘さ――一粒だけでも、このお菓子の虜になりそうですわ」 チョコを、傍観していた獣人達にも差し出してみる。「ええっ? 要らないよ、旦那」「どうした? 何か嫌な匂いでもするのか?」「そうじゃないけどさ……これ以上美味い物を食っちゃ、旦那から離れられなくなりそうで……」「うにゃ~トラ公は、ケンイチの所から出るつもりにゃ? 後はウチに任せるにゃ」 ミャレーがチョコの1つに手を出した。「誰もそんな事は言ってねぇだろ!」「う、うみゃー! 甘くて美味くて甘くて美味いにゃ!」 同じ事を繰り返しているが、語彙が少々足りないのであろうか? だが、チョコを食べたミャレーがいきなり俺に抱きついてきた。「こら、ミャレーちょっと待て! 人前だから!」「クロ助、てめぇ俺の前で何やってんだ?!」「抜ける奴には、関係ないにゃ」「誰もそんな事言ってねぇ!」 そう言ったニャメナは俺の手渡したチョコを口に放り込んだ。「……確かに、甘くて美味くて甘くて美味くて……ちくしょう――これが褒美だっていうなら旦那の言う事をなんでも聞いちまいそうだ」「なんでそうなる?」 俺と獣人達の絡みをみていた、王女が笑い声を上げた。