鬼穿将戦、最終試合。 私の相手は、言わずもがな。にこやかな笑みを浮かべているこの老人。エルンテ鬼穿将。「ディーに灸を据えてくれたようで、助かったわい。儂もほとほと手を焼いておったのでな」 よくもまあそんなことを言える。そう差し向けたのは、貴様だというのに。「怖いのだろう?」「何?」「私に負けるのが、怖いのだろう? 私がディーやアルフレッド殿に対して使った戦法の数々。それを自身にも向けられるのが、怖いのだろう?」 堂々と言ってのける。すると、エルンテの表情が強張った。「弱い魔物ほどよう吠える。余裕がないのはお主の方ではないかの?」「やってみなければ分からないぞ」「は……はははっ! はぁっはっはっはっ!」「……何がおかしい」 ――ゾッとする。 突如として笑い出したエルンテは、その老いさらばえた皺々の皮膚の奥に隠れた片目を開いてギロリと私に向け、歪に笑いながら口を開いた。「ディーが来ようが、ジェイが来ようが、あの若造が来ようが、お主が来ようが、儂は勝つ。お主らの手の内などここへ至るまでに全て明かされておる。雑魚がいくら足掻こうが、鬼穿将は儂のものよ」「……卑劣な」「何とでも言え。勝てばよいのだ。どのような手を使ってでも、最後に勝った者のみが笑えるのだ。400年、儂はそうやって生きてきた。そうしなければ勝てぬ。そうしなければ生きられぬ。無知なお主に教えてやろう。鬼穿将戦とはのう、血で血を洗う殺人決戦なのだよ」「やはり、ミックス姉妹を利用していたのだな」「何がそれほど気に食わん? 弟子を使って出場者の手の内を探ることか? それとも、弟子をけしかけて出場者を潰すことか? それとも、弟子に対して、師匠に決して敵うことのないような半端な弓術を教えることかのう?」「貴様の、全てだ……ッ!」 弓を構え、互いに所定の位置へ移動する。 ――勝ちたい。 これほど勝ちたいと思ったことはない。 勝つ、勝つ、勝つ。勝つ……!「始め!」 審判によって号令がかかる。 私は即座に、エルンテとの間合いを詰めるよう疾駆した。 手始めに、鬼殺しを。次に香車ロケットを。そして新鬼殺しを。持てる全てを出し尽くす。「さぁて、何から来る」 エルンテは余裕の表情だ。 見ていろ。その顔、慚愧に歪ませてやる――ッ!