この時、セカンドは、悠長にも考えごとをしていた。 どうしよっかなあ――と。 昼食を蕎麦にしようかうどんにしようか悩むように、はたまたまな板の上に転がる魚の調理法を悩むように。 敵とすら認識されていない……そう感じたレンコは、俄かに激昂する。「舐めんじゃないよっ!」 ズンッと地面を踏み込み、弾丸の如き速さで間合いを詰めるレンコ。その右の拳に乗せるのは、強力な単体攻撃スキル《銀将体術》であった。 変身によって3.6倍となったAGIとSTRによる接近と攻撃。躱せるわけもなく、喰らえば確実に決定打、この一撃で勝負は終わると、レンコはそう信じて疑わない。 捉えた! レンコが確信した、次の瞬間。「――え」 彼女は仰向けに倒れていた。 そして、直後――「う、ああああッ!?」 全身の骨が砕けるような衝撃が彼女を襲い、《変身》によって高められていたHPがその半分ほどにまで削れる。 何故!? 何故!? 何故!? 激痛と混乱の狭間、彼女はなんとか起き上がりながら必死に考える。 その答えは、セカンドの口から出ることとなった。「銀将盾術のパリィは反撃効果が乗るんだ。お前のSTRが無駄に高かった分、でかいダメージになったな」「…………な、何だってっ……?」 レンコは混乱を極める。 セカンドは、あの一瞬でパリィしたというのだ。しかし、今、セカンドは盾を装備していない。つまり、レンコが《銀将体術》を発動した瞬間、セカンドは盾をインベントリから取り出し、《銀将盾術》を発動し、タイミングを合わせてパリィし、盾をまたインベントリに戻したということ。 もはや意味不明。理解の範疇を遥かに超えている。「うっ!?」 レンコが唖然としていると、その頭にばしゃりと液体がかかった。 セカンドが高級ポーションをぶっかけたのだ。レンコのHPは見る見るうちに全回復した。「なあ、ほら、さっさと教えてくれよ。本物の喧嘩ってやつをさぁ」 意地の悪い言葉が投げかけられる。 ……立ち上がるしかない。立ち向かうしかない。 レンコに、逃げ場はなくなった。否、退路など、端から存在しない。「――シィッ!」 立ち上がりざま、不意を突いた一撃。 その刹那、インベントリから取り出した長剣によって繰り出された《桂馬剣術》は、セカンドの腹部を突き刺さんと急激に加速する。 完璧な不意討ちだった。 長剣を取り出したことによって、突如としてリーチが伸びたのだ。これを躱せるものなどいないと、レンコ自身が確信するほどの突きだった。「…………え……」 だからこそ、何が起きたのか、理解できなかった。「相殺。まさか知らないわけないよな? 魔術にもあるように、剣術にもある」 セカンドが馬鹿にしたように言う。 レンコの頭の中は一瞬にして搔き乱された。 確かに放ったはずの攻撃が突如として消滅したのである。大混乱だ。 相殺? 知るわけがない!「知らんのか。やり方は、剣の速度と方向を揃えて同系統のスキルをほぼ同時に発動するだけだ」「!?」 そして、驚くべきことに、セカンドはその相殺の“やり方”を口にした。