本来試練を与えると言うのなら、生活なども苦労させなければいけないのに……本当にこの御方は優しい方だと思います。 ……もしかしたらそのせいなのかもしれませんね……。 神様が西条財閥にだけ、アリス様の近い世代で化け物と言っても過言が無い人間をお与えにならないという、試練をお与えになったのは……。 これはアリス様の予想ですが――そのせいで、西条財閥はアリス様の世代で廃すたれていくとの事です。「そうだと思った……。西条の子がアリアに勝ったとしても、絶対に連れ戻したら駄目」 アリス様は溜息混じりにそうおっしゃられました。「それは何故ですか……?」 西条社長は怪訝な表情でアリス様に尋ねられました。 アリス様の思惑が理解できないのでしょう。「今ここで西条の子を連れ戻せば、折角のKAIとの繋がりが失われる。前アリスが電話で話した事を覚えてる?」「あ――えと、確か紫之宮財閥に凄い少年がおつきになられたとか……」 その凄い少年というのが、黒柳さんの事です。「そう――クロは凄い。このままいけばアリスの世代で、日本三大財閥の拮抗していたバランスが崩れる」「本当にそんな力を持つ少年が居るのですか……?」「クロ自身の力はアリスやKAIには及ばない。おそらく、個人の力はアリアレベル。だけどクロの長所をもってすれば、KAIやアリアはクロの相手にすらならない」 アリス様は平然とそうおっしゃられました。 まさかここまでおっしゃられるとは思いませんでした。 愚妹はともかく、アリス様は神崎さんの力を凄く評価されています。 そんな彼が相手にもならないとは……。「その彼の長所とはなんですか……?」「クロの長所は――対面した相手を味方につける。そして優秀な人間ほど、彼の事を好む」 アリス様がおっしゃられた言葉を聞いて、私はまるで黒柳さんは物語の主人公の様な方だなと思いました。 私がそんな事を考えている中、アリス様の言葉は続きます。「クロは相手を頭ごなしに抑え込むんじゃなく、相手と心から向き合い、自分の目的を達成しながら相手の望む事を同時に満たす事が出来る。そして力や才能を持つ人間の周りは、自分を利用しようと近寄ってくる人間ばかりだから、心から向き合って話をしようとするクロは好意的に映る」「しかしそれは協力を得るという意味では、頭ごなしに抑えつけるのと変わらないのでは? まぁ、自分の目的を達成しながら、相手の望むことを叶えるというのは凄いと思いますが……」「全然違う。頭ごなしで得られる協力は最低限のものでしかない。だけど、心から向き合おうとするクロが味方につけた人間はクロの為に頑張ろうとする。つまりそれは、優秀な人間が自分の持つ力を最大限に発揮し、クロに協力をするという事。そしてクロは指揮を執る人間としては、かなり優秀なタイプだと思う。だから、例えクロ自身の力はそこまで強くなくても、クロは集団戦で最強の存在になる。逆にKAIは個人技でこそ並ぶ者はいないかもしれないけど、集団戦は不得意なタイプの人間。なぜなら彼は、他人の気持ちが理解できないから。もうここまで言えばわかるよね? これからアリアや西条の子――そしてクロが立つのは、会社を導く立場。それはつまり、集団戦。だからクロを獲得できた紫之宮財閥は、この先急成長を遂げるはず」