金剛戦挑戦者決定トーナメント決勝。 エコ・リーフレット対ロックンチェア。 金剛戦では大変珍しい、獣人対人間の試合である。 向かい合う二人は、非常に凸凹であった。 かたや、身の丈ほどもある大盾を持った小さな獣人の少女。 かたや、バックラーほどの小さな盾を腕につけた人間の男。 どちらが勝つのか、誰にも分からない。そんな勝負が、今、始まろうとしていた。「準決勝の戦法、お見事でした。勉強させていただきました」「うん。いっぱいれんしゅーしたから」「ふふふ、そうですか。僕もいっぱい練習してきましたよ」「じゃあ、いっしょ!」「はい、一緒です」 タイトル戦とは思えない和やかな雰囲気。それはエコが持っている生来の人懐っこさと、ロックンチェアという男の人柄の良さに起因する。「貴女は楽しそうに戦いますね。見ていてこちらも楽しくなってしまいます」「あたし、いま、しあわせ。たのしいっ」「ええ。この試合、僕も楽しませていただきます」「よろしく!」「はい、よろしくお願いします」 エコは今、幸せだった。昔では考えられないほどに。 ゆえに、彼女はそれ以上を決して求めない。 今、目の前に楽しいことがあれば、それだけで、彼女は最高に幸せなのである。「――始め!」 そして、号令がかかった。 瞬間、両者の顔つきが一変する。獲物を狩るそれへと。 ロックンチェアは開幕で《飛車盾術》を発動し、突進。エコとの間合いを詰める。 エコは、その初手を見て……《歩兵盾術》を準備した。「!」 何故、よりによって歩兵なのか。 突進しながらも、ロックンチェアは考えを巡らせる。 このまま《飛車盾術》で衝突すれば、威力の差でエコの《歩兵盾術》は崩れ、相当なダメージを与えられるはず。「……否」 これは、罠。 ダメージは与えられるが、確実なダウンは取れるかどうか分からない。ゆえに、その後のカウンターが怖い。 肉を切らせて骨を絶つつもりだろう。というのが、彼の最終的な予想だった。「ありゃー……」 手前で突進を止め、間合いを詰めただけで終わったロックンチェアの挙動を見て、エコは残念そうな声を出す。予想は見事に当たっていたのだ。 奇襲戦法、その弐――“パックマン”。 これは、不発に終わった。 今の《歩兵盾術》は、実に巧妙な毒饅頭であった。誰もがパクッと食べたくなる甘いお饅頭である。向こうがこれを「チャンス」と見て、あのまま《飛車盾術》で攻撃していれば。自身が吹き飛ばされたその瞬間から《龍王盾術》を準備した場合、相手の追撃が来る直前にギリギリで発動できるのだ。距離が近い状態ゆえ、相手は回避不可能。【盾術】最大火力の龍王をモロに喰らわせて、ゲームセットの予定であった。「いやあ、恐ろしい。ミミックのような戦法ですね」