「久しぶりの戦い」「久方ぶりです、久方ぶりです」「勝負は、一人ではできない」「相手がいるのです、二人もいるのです」「でも、戦えるのは一人だけ」「千手将ですから、タイトル保持者ですから」「もったいない」「残念です、無念です」 ほら、またなんかヤベーヤツが出てきたぞ。 一人でぶつぶつ言ってらぁ……。「初めまして、わたしはグロリア」「初めまして、初めまして」 三回挨拶された。 腰まで伸びた銀髪が特徴的な美人の女エルフだ。普通にしていれば何処ぞの姫様のような美麗さがあるが、彼女の様子は終始「普通」とは程遠い。「どうもセカンドです」 俺が簡単に返すと、グロリアは「うん」と一つ頷いて、口を開いた。「知ってる」「知ってた、知ってた」 なんだこいつ……駄目だ、気になって仕方がない。「なん、何、その……微妙に声色を変えて繰り返すのは、何か意味があるのか?」「あるよ」「ある、ある」「あるのか。教えてもらってもいいか」「いいよ」「いい、いい」 いいらしい。「わたしの友だち」「シウバです、シウバです」「シウバは陽気で目立ちたがり。だから同じことを二回言う」「グロリア様は控え目です、グロリア様は引っ込み思案です」「ほらね」 …………なんと言ったらいいものか。 ネトゲという環境の性質上、過去何度も「私って不思議ちゃんなんですぅ~」みたいなエセ電波女と会話せざるを得なかった俺だからわかるが、グロリアは紛れもなくガチだ。 こいつ、多分、本気で自分の中にシウバという友だちがいると思っている。いや、事実、本当に存在しているのかもしれない。 あまりにも自然体すぎるんだ。こうして俺がなんの意識もせず呼吸しながら顎に手を当てて考えごとをしているように、彼女もまたなんの意識もせずに自身の口から湧き出てくるシウバの言葉と会話していることが見て取れてしまう。「そうか、友だちなのか。シウバはグロリアの口を乗っ取ってんのか?」「……珍しい」「驚きました、びっくらこきました」「わたしのこと、気持ち悪がらないのね」「質問答えます、回答いたします」「まず、頭の中で話し合う」「相談しています、会議しています」「それから、代わりばんこで喋るの」「これ最良です、これ最善です」 脳内で話し合った結果を、交代で喋るらしい。確かに、グロリアとシウバで別々に喋っているように見えて、喋る内容には一貫性がある。へぇ、面白いな。「わたしも、聞きたいことがある」「質問したいです、聞いてみたいです」「おう、構わないぞ」「どうして、気持ち悪がらないの?」「不気味でしょ? 気味悪いでしょ?」 なるほど。いや、どうしてって言われてもなぁ。「お前が本物だからだよ」「わたしが、本物……?」「偽物じゃないってこと、見せかけじゃないってこと」「ああ。経験上、お前のような本物は――知識も技術も本物だ」 あくまで経験上の話だが、これまでの俺のメヴィオン人生を思い出すに、的中率は100%だ。 彼女のような“独特の感覚”を持つ者は、人一倍、何かに秀でている。 それが【杖術】である、と……なあ、そういうことだろう? 気持ち悪い? 馬鹿を言え。むしろ気持ちがいい。 この期待が高まる感覚、気持ちがいいと言わずなんと言うのか。 感謝させてくれよ、これから。グロリア、お前がシウバと共にこの世に生を受け、【杖術】と出会い、輝かんばかりの才能を開花させたことを、俺に感謝させてくれ。