眼鏡でボサボサ頭の、オタク風の男である。
「そこのおうちの子犬、見たことある?」
「ない……。こいぬ、いるの?」
「うん。ダックスフンドの、凄い可愛い犬だけど、知らない?」
「しらない……。ねーねー、どこにいるの?」
「中にいるかもしれないから、ちょっと見てくれば?」
まだ7歳の女の子だから、こんな風に大人に言われれば直ぐに信用してしまう。
「うん! 見てくる! お兄ちゃん、教えてくれてありがとう!」
「いや、どういたしまして……」
高岡は言葉巧みにM子を騙し、子犬なんている筈も無い廃屋に誘い込んだ。
「いぬさん、どこー? わんわんっ」
M子は、決して馬鹿ではなかった。ただ、少し探究心が強く、素直だった。
寄り道が多くて、両親を心配させる事も多々あった。
「いないなぁ……。いぬさーん……」
「いない?」