さて、青空色のパジャマに着替えたマリーは、まだ赤い顔をしつつもテーブルへ腰を下ろす。髪を乾かすためバスタオルを頭にかけ、むっすりと唇をとがらせている。 いじけた女の子を元気付けたいなら、とびきり興味を引くものが必要だ。そしていま、僕はちょうど良いものを手にしている。 テーブルへ乗せたそれはDVDであり、どこかファンタジー世界を思わせるタイトルに少女は興味を引かれたらしい。「あら、映画かしら。なんだか素敵なタイトルねぇ」「たぶんマリーと同じくらいの年の外見じゃないかな。女の子の活躍する映画なんだけど、興味はあるかな?」 お風呂あがりに見てもらうつもりだったけど、すっかり雑談を楽しんでしまったな。やはりマリーは薄紫色の瞳へ好奇心を浮かばせ、バスタオルをどかして見上げてくる。「ええ、もちろん見たいわ! ただしお砂糖抜きの紅茶を用意してくださるかしら?」「かしこまりましたお嬢様、すぐにアイスティーの準備をいたします」 そう答えると機嫌は直ったらしく、テーブルの下で足をぱたぱた揺らしてくれる。 夏の映画はいくつもおすすめがあるけれど、今夜のものはそこまで季節感は無いかな。とはいえ、たぶん来年の夏を迎えれば彼女らも見たくなるのでは、という予感もある。 そう考え、僕は映画を見る準備を始めることにした。