「ディー、ジェイ。足元に気を付けなさい」「うるさいわね、わかってるわよ」「姉さん、お師匠様は親切で言っているのだと思いますよ」「その親切がいちいちうるさいのよ。ジェイもそう思うでしょ?」「え、いや、まあ、それは確かにそうですが」「ほら二人とも、無駄口を叩いてないで早く馬車から降りなさい。御者の方に迷惑だ」「はいはい」「はい、今すぐ」 王都ヴィンストンに到着する馬車が一台。 中から姿を現したのは、癖のある鈍色の長髪を風になびかせた壮年の男アルフレッド。その後ろから、エメラルドグリーンの長い髪が特徴的なつり目の女エルフ、ディー・ミックスと、その妹で姉によく似た顔立ちと髪色をしたショートカットの女エルフ、ジェイ・ミックスであった。 三人はなんだかんだと言い合いをしながら、賑やかに馬車を降りる。 しっかりと前を見据え、迷いなく歩く三人――彼らを知る人から見れば、それは以前では考えられなかった姿と言えた。「セカンド三冠には、きちんと挨拶するように。これは師からの命令と思いなさい」「何回言うのよそれ。十回以上聞いたわよ、もう。わかったって言ってるでしょ」「お師匠様。私たちに信用がないのはわかりますが、流石に言い過ぎでは」「信用していないわけではないが……ともかく、彼には最大限の敬意を払ってほしい。私の、恩人なんだ」