「ルミナ……謝罪はしないからな……」 妹の様に可愛がった少女。 俺を裏切った、大切だった存在。 長い時間を共にし、俺に笑みを向けてくれた少女。 そんな子が息を引き取って倒れている。 俺は選んだんだ。 血と血で染め合う二人の中から、フィーリアを。 ……いや、ルミナは魔王に奪われてしまったのだから、最初から選ぶも何も無い。 それでも、俺は選んだ。 フィーリアと生きる道を。 間違いだらけの人生だったが、この選択だけは正しいと断言出来る。 だから。 だから、フィーリアには生きていてくれないと困る。 まだ話せていないんだ。 これからどうするのか、どうしたいのか。「頼む、死なないでくれ……」 そうしてフィーリアを山小屋のベッドに寝かせた頃には、外の雨音が大きくなっていた。 幸いな事にこの小屋にはベッドが設置されていた。 随分と使われていない形跡を見るに、持ち主がいなくなって久しいのだろう。 多少汚れていたので、荷物に入っていたマントなどを敷いてフィーリアを寝かせている。 俺は眠る彼女の身体に張り付く赤と紫の血を拭い、別の服に着替えさせた。 激しい戦いだった影響か、服はボロボロになっていたからだ。 ……彼女の荷物には以前俺が渡した服しかなかったので、それを選んだ。「すぅ……ん……」 着替えを終わらせた後、彼女の小さな寝息を聞きながら、俺は思考に耽る。 どうしてもっと早く気が付かなかった。 俺をここに残して外に出たフィーリアは明らかに様子が違っていたのに。 いや、追い掛けてからもだ。 フィーリアとルミナが殺し合う姿を見て、思考が停止してしまった。 既に互いが血で染め合っていた。 まるで血で出来た霧の様に周囲は染まっていて……へたれていた俺は動けなかった。 この時になって、選ばなければいけない事に気付いた。 逃げ続けた時間。 追い掛けてくる足音。 俺の弱さを全て受け止めてくれた、守ってくれた少女。 フィーリアは俺にもう戦わないでほしいと言った。 俺自身、戦う意味が無くなった今、どう戦えば良いのかわからなかった。 だけど、今戦わなければ本当にダメになってしまう。 既にそんな領域はとっくの昔に通り過ぎてしまったのかもしれない。 それでも、戦わなければいけないと思った。 ……俺は自分の意思でルミナに剣を向けた。 ルミナの胸に剣が突き刺さっていく瞬間、色々な感情が雪崩の様に通り過ぎた。 好きだった。大好きだった。 割り切れない部分は残っている。 好意、敵意、殺意。 沢山の感情が入り乱れて、自分の心なのに説明する事すら出来ない。 だが、『だった』だ。 自分でも冷たくて酷い決断だと思ったが、フィーリアの方が大切なんだ。 フィーリアに沢山酷い事をしてしまった。 フィーリアを信じてあげる事が出来なかった。 フィーリアを何度も傷付けた。 フィーリアの優しさに漬け込んで、甘え過ぎた。 彼女の為に生きるって決めたんだ。 酷い事をした分だけ償いたい。 傷付けた分だけ報いたい。 優しくしてくれた分の何倍も返したい。 彼女の信頼をこれ以上裏切りたくない。