まだカレンダーを見上げているエルフに気づき、そっと花柄のパジャマに手をかける。そのまま両膝を支え、ひょいと担ぐと大きな瞳には喜色が浮かぶ。「あら、とうとう眠らされてしまうのかしら。まるで夜ふかしを怒られる子供のようね」「僕が言うのも何だけど、寝る子は育つと言うらしいよ、お姫様」 やあ、相変わらず軽いね。抱き心地も良く、少女の手は僕の首へと絡みつく。ぬくい体温は伝わり、ぱたぱたと少女の足は機嫌良さそうに揺れた。 さあどうぞ、とシャーリーへ背中を向けると、青空色の瞳にも喜色は浮かぶ。いつものように肩を掴まれ、ふわんと僕は取り憑かれる 思い出したように、シャーリーへ振り返った。「そうだ、初めての日本はどうだったかな、シャーリー。僕としては楽しんでくれたなら嬉しいんだけど」 きょとりと瞳を丸くし、それから彼女は吹き出した。 まさか、つまらないわけがありません、と言っているかのようだ。なら良かったよ、どうせなら思い切り楽しんで欲しいからね。 そう感じるのは、たぶん彼女の感情を知ったせいだろう。 彼女と休日を過ごしていたとき、景色や食事を楽しんでいる感情を伝えてくれた。それは僕が宿主であり、同一化しているから分かったことだ。 しかし同時に、内面に抱えている感情まで知ってしまった。 それはか細い泣き声に似ており、まるで迷子になり置いていかれる子供のようだった事を覚えている。あれはきっと、長いあいだ孤独のなかに居たせいで、今の生活が無くなることを恐れているのではないだろうか。 ただ、この時の僕は知らなかった。 この気持ちよさそうなベッドの先――夢の世界では、彼女の悩みを解消するものが待っているという事に。