「――ただね、無理だったんだ。他の誰かと長い時間を過ごすというのは。彼女は見るからに軽い気持ちで伝えてきただろうに、そのとき感じたのは漠然とした不安だった」「…………」 じっと見上げてくる瞳はかすかに揺れる。 そのような考えをする僕なのに、なぜ彼女へ告白をしたのか。たぶんいま、その疑問を互いに抱えていると思う。 あの一歩を踏み出せたのは、勇者候補と呼ばれた男のおかげだ。 マリーを奪うという明確な悪意を見せられ、決して手放したくないと僕はあがいた。それはもう倍近いレベル差があっても最後まで諦めないくらいに。 そう伝えると、鈴の音のような声で笑われた。「ふふっ、あれは凄かったわね。まさか寝ぼすけなあなたが、最後には泣いて命乞いをさせるだなんて。正直なところ、あれを見て今年一番にスカッとしたわ」「え、まさかひょっとして全部見てたの? はあ、ウリドラも視聴制限を考えてくれると良いんだけど」 今や魔導竜はすっかりと映像化魔法を使いこなすようになったからね。 どうやらその時は大変な大盛り上がりをしたらしい。まるでサッカーの名場面のように「おおおおお!」などと女性らがコブシを握っていたとか何とか。 僕としては、逆にそんな光景こそ見てみたいと思うけれど。「不思議とね、あなたのことが誇らしかったの。たぶん皆そうで、ウリドラなんて痛快だと笑い転げていたほどよ」「まあ、そんなこんなで、誰かを支えられるくらいの器量を持ちたいと思いまして」「あら、私を支える必要なんて無いわ……なんて介抱をされている時に言っても説得力がまるで無くて困るわ。そうね、この言葉はまた明日伝えることにするわね」 なんとも楽しい会話だなと思う。彼女の軽口は小気味良く、それでいて深い思いやりを感じるところがある。一緒に部屋で過ごした日々もそうで、互いに伸び伸びと遊び、実に気の休まる時間だった。 その頃よりも、今の彼女はずっと近い。 重ねあう手のように、まるで一部が溶け合ったようにさえ思う。 もう一度、彼女は質問をしてくる。 それは僕らの距離が少しだけ近づいたせいかもしれない。