「ふ、ふ、正直なところ、わしは剣士という職業の底の浅さを感じておった。成せる事が小さいとばかり思っていたぞ。しかしのう、おぬしらを見ていて浅い考えであったと反省をした。あの魔導竜がじゃぞ? 反省をして、考えを改めたのじゃ」「ありがとう、ございます……」 なぜだろうか、酔っ払い相手だと僕はつい敬語になってしまうよ。 態度の大きさもさることながら、押し当てられた胸は重量感をたっぷりと伝えており、思わず「助けて」とマリーに救いの目を向けてしまう。 半妖精エルフ族はとろんとした瞳をし、口を半開きにしたまま瞬きを何度か繰り返す。「あはっ、あはははっ! カズヒホが小さくなってる! さすがは日本のサラリーマン!」 ああーー、駄目だこりゃ。 おかしいな、夕方の時はとても優しい子だったのに。 などと考えていると、絡んでいる腕からぐいと顔を横へ向かされ、頬を染めた黒髪美女の顔がアップで迫る。「聞いておるのかー。剣士というのは敵を真っ直ぐに見て、息も出来ぬような接近戦をせねばならぬ。その視点は、わしら魔術の操り手が持っておらぬものじゃ。相手の想いを知ることも気にする事もなく、虫のように叩き潰してしまう。しかし、しかしじゃ、魔道に目覚めたマリー、生命を司るシャーリー、彼女らの架け橋としておぬしが必要なのじゃ」 いかん、僕が意地でも出席を拒否していた飲み会へ、ついに迷い込んでしまったような感じだぞ。いったい誰かな、たっぷりの地酒を置いて行ったのは。ああ、注文したのは僕だったか。「そうですね、僕もそう思います。ところでウリドラさん、実は鍋というのも美味しくてですね。こちらは大した調理をせずとも、誰でも作れるものなんですよ。第二階層のメニューにぴったりじゃありませんか?」 ぱちぱちと黒曜石の瞳は瞬きをし、それから……見蕩れるような大人っぽい笑みへと変えた。「今はわからずとも良い。魔装カルティナを前に剣を納めたこと、わしは誇らしく思うぞ」 ぐりぐりと頭を撫でられたが……今までの酔った姿はまるで演技だったように感じられ、思わずシャーリーと見詰め合ってしまった。 そのように不思議な思いをしつつも、やはり彼女の胃袋は健在だった。 魚介たっぷりのダシが効いた鍋を大層気に入り、美味い美味いと食してしまう。気がついたら雑炊まで空っぽになっているのだから、魔導竜という存在へ改めて驚かされたよ。 しかし浴衣というのは、もう少し太ももが見えない作りになっていると良いのだけれど。いや、あぐらをかく方に問題があるのか。 そのように思いながら、温泉旅館の夕食というものを皆で楽しんだ。