「なっ……!?」「……な、なんじゃあ、そりゃあ……ッ!!」 ビサイドだけでなくキュベロも驚いている。そうか、見せるのは初めてだったか。「これは精霊憑依という。九段で全ステータスが4.5倍される」「く、九段……!?」「4.5……倍……」 単純に考えても、どっこいどっこいの相手がいきなり自分の4.5倍強くなるということ。絶望的な差である。 キュベロは以前俺に一発殴られたことから俺の純ステータスの高さもある程度は予想がついているはずだ。そこから4.5倍となると、どれほど差が開いたのか想像もつかないレベルだろう。青い顔をするのも分かる。「チッ……やったらァッ! これしきでイモ引くわきゃあるかい!」 が、忘れていた。こいつはキュベロの舎弟、筋金入りの侠客。どれだけ差があろうと、それをものともせず立ち向かってくるような男であった。 ガツン――と。俺のアゴに《銀将体術》が直撃する。「い、いでででででッ!?」 声を出したのはビサイドの方だった。右手を押さえて地面にひっくり返っている。 俺はというと、びくともしていない。ビサイドのSTRと俺のVITに大きな差があり過ぎたため、ビサイドの攻撃がちっとも通らず、行き場を失ったダメージが全部その拳の方へと返っていったのだろう。「あーあー馬鹿野郎が」 俺は仕方なしにビサイドの右手へ【回復魔術】《回復・小》をかけた。打撲程度ならこれで何とかなる。「……す、すんません。痛み入りやす」 ビサイドは立ち上がると、恥じ入るように深々と礼をした。完全に戦意喪失した様子だ。 そして何故か、その隣でキュベロまで頭を下げている。クソ真面目なキュベロのことだ、舎弟の失態は自分の失態とでも思っているんだろう。「舐めんじゃねえぞ三下」 俺はアンゴルモアを《送還》しながら、とりあえず叱っておいた。二人は、更に深く頭を下げる。「一生、舐めたマネはしやせん。このオトシマエ、おいらのエンコで何とか堪忍してつかぁさい」「いえ、この件は若頭であり兄貴分である私の責任。私が詰めます。ビサイドにはここで責任の取り方というものを学んでいただく」 ちょっと予想外の方向へ話が進んでいく。「おい待て、話をでかくするな。もういいよ舐めないんなら」「それでは筋が通りません! セカンド様は我らR6再生の希望。私を拾い救っていただいた大恩人。知らぬとはいえ牙を剥いたとなれば、セカンド様が許しても私が許しません」「そんな……そう、だったんですかい。おいらは何てことを……こうなったらもう、おいらの命で」「だから待て! どいつもこいつも人の話を聞かねえ……ん?」 ふと気付く。もしやキュベロ、お前、そういうことか? ちらりと表情を窺うと、キュベロも丁度こちらを向いていた。ああ、やっぱりそういうことね。「……分かった、ビサイド。責任を取るというのなら、一つ頼みたいことがある」「頼みたいこと、ですかい……?」「ああ」 キュベロの誘導でスムーズに行った。おかげさんで臨時講師の仕事に遅刻しなくて済みそうだ。俺は心の中でキュベロに感謝を言いつつ、そんなことを考えながら口を開いた。「お前には、民衆の前で証言を頼みたい」