100円ショップ向けにキティちゃんなどのキャラクター商品を手がけていた井上工業が自己破産の申請準備に入ったことが明らかとなりました。このところ円安による輸入物価の上昇で、低価格をウリにしていたビジネスが苦境に立たされているといわれていますが、100円ショップはこれからどうなってしまうのでしょうか。
井上工業の主な納入先は100円ショップ各社となっており、中でもダイソー向けの売上げは全体の50%を占めていたといわれています。井上工業の業績が悪化してしまったのは、100円ショップ向けの売上げが伸び悩んでいることが原因と考えられます。100円ショップ大手である、ダイソー、セリア、キャンドゥ、ワッツのうち、増収となっているのはダイソーとセリアのみで、あとの2社は横ばいに近い状況です(ダイソーは財務情報を公開していないので推定)。
100円ショップのような低価格をウリにしたビジネスは、このところの円安による仕入れ価格の上昇に悩まされています。100円ショップに通っている人は、実感として分かっていると思いますが、ここ1年の間に、内容量が大幅に減ったり、品質をワンランク落とした商品が目立つようになっています。100円ショップに納入する企業に対しても、値引きの要請や、商品の入れ替えに伴う取引数量の減少がなどあったと想像されます。また他店との差別化を図るため、取引先には即納体制を求めるところもあります。これによって井上工業のようなメーカーは過剰な在庫を抱える結果となってしまいました。
100円ショップの中には、200円の商品などをうまく組み合わせているところもありますが、やはり基本は100円ですから、インフレの時代にはさらにコスト競争が厳しくなってきます。納入するメーカーへの要求もさらに厳しくなってくるでしょう。
ただ、こうした市場環境の変化が、100円ショップ本体の経営を直撃しているのかというと必ずしもそうではありません。100円ショップは、その見かけとは正反対に非常に利益率が高いビジネスだからです。例えば、キャンドゥは平均すると約63円の価格で商品を仕入れています。一方、大手スーパーであるイオンは、100円の値段が付く商品の平均仕入れ価格は約73円です。他の大手スーパーもだいたい同じくらいの値ですから、100円ショップの利益率は高いということになります。
体力のある100円ショップはその購買力を生かして、利益率を確保できるように品揃えを変えていく可能性が高いでしょう。その過程では井上工業のように残念ながら経営難に陥る取引先も出てくることになります。
100円ショップのもともとのアイデアは米国の1ドルショップですが、1ドルショップもはじめて登場した時には5セント・ショップと呼ばれていたようです。インフレで単位が変われば、その名称も変わっていくわけです。したがってインフレ時代になったからといって、100円ショップそのものがなくなってしまうようなことにはならないでしょう。