もともと利益率の高かったウッド・ペイン製の家具をさらに値上げして売却し、今月も無事に売上目標を達成することができたグルデムは、ほっと胸をなでおろす。 その後も上客と談笑をしていると、一般フロアの方がなにやら騒いでいる。「こちらは一般の方は許可なく入れません!!」「くっそ! ダメだ。ビクともしやがらねえ!」「止まれってんだ!!」 客もグルデムたちも声のする方へ目を向けると、複数の従業員を引きずりながら歩くユウの姿が見えた。「お客様の前でなにをやっている!」「も、申し訳ございません。こちらの方が私たちの制止を振り払って」「言い訳はいい。そちらの方をすぐに――グルデム様?」 手代の一人が護衛にユウを連れ出すよう指示をだそうとするが、それをグルデムが制止する。同時に客を別室へ移動させるよう、ユウからは見えないように背に手を回してからハンドサインで指示を出す。「これはこれは。 サトウ様、初めまして。私はべルーン商会五番店の番頭を任されているグルデム・エガァと申します。 現在ウードン王国で活躍する冒険者のなかでも、もっとも高名な御方にお会いできて光栄ですよ」 周りが闖入者に動揺を隠せないなか、グルデムは淡々と対応する。「へえ。落ち着いたもんだな」 高位冒険者であるユウを相手に、一歩も引かないグルデムにべルーン商会の者たちは落ち着きを取り戻し、笑みさえ浮かべ始めていた。「この程度で狼狽するようでは、べルーン商会ではやっていけません。 それよりも、ウッド・ペインの件は大きな痛手となりました。本来であれば、今頃は木工の盛んなウッド・ペインのすべてを手にしているはずだったんですが、予定が大幅に狂ってしまいました」「俺はお前らが来るのを待ってたんだけどな。なのにビビって来ないから、こっちも予定が狂ったんだから、お互い様だろ」「やはりマゴ商会ではなく、サトウ様の差し金でしたか」「差し金? 人聞きの悪いことを言うなよ。まるで俺が悪いことをしたみたいだろうが」「これは失礼しました。決してサトウ様を貶めるような意味はございません。 ですが、なぜサトウ様ほどの御方が、マゴ・ピエットなどという二流の商人と手を組まれたのか理解に苦しみます」「マゴが二流の商人?」