「御免なさい」「え、なにが? いやもちろん沢山食べて欲しいけど。謝る事なんかじゃ……」 詫びの言葉に驚きはしたが、ううんとマリーはかぶりを振る。少女は食事のことではなく、それ以外の何かを謝りたいらしい。「昨夜のこと、伊豆で眠りにつく間際、たくさんキスをして御免なさい。駄目ね、お酒はもう少し控えないといけないわ。でもとても幸せだったの。ほら、あなたってとても優しい香りがするでしょう? だからつい近くにいたくなるの」 そう言い、恥じらいを残したとても綺麗な笑顔を見せてくれた。 真珠のような歯を覗かせ、周囲は眩い陽光に包まれたように明るく感じる。どくっ、と心臓は勝手に高鳴り、矢が突き立ったような思いを僕はした。 わ、わ、わ、顔が熱いぞ。 少女はしっかりと昨夜のことを覚えており、それでも恥ずかしがらずに僕の側から離れなかった。それはつまり、とても自然なことだとマリーは考えているのだ。 とすんと隣に腰掛けられると、いつもより僕の胸は高鳴る。 柔らかく触れる肌、そして彼女からの甘い香りに年甲斐もなくドギマギとさせられる。「ただ、時々で良いから、あなたからして欲しいわ。でないと、はしたない子だと思われてしまうでしょう?」 むすりと唇をとがらせた茶目っ気のある言い方に、ふっと肩の力が抜けてくれる。そして互いに静かに笑い声を漏らし、もう少しだけ深く寄りかかりあう。「そうだね、僕はどうやら奥手らしいから迷惑をかけているかもしれない」「私だって奥手よ。少なくともエルフの里では男の子の手なんて怖くて触れなかったもの。あら、そういえば手をつないだのもあなたが最初だったかしら。まさか覗きをするような人が相手だなんて、不思議な事もあるものね」 ああー、そういえばあったねぇ、覗きだと誤解された時が。 そればかりは運命を呪うしか無くて、そんな最悪な出会いから今では正式にお付き合いをしているのだから、結局は運命に感謝するしか無い。なんともはや複雑な心境だ。 やがて音楽はより賑やかなものへと変わる。 演奏者まで歌声を響かせると、二人の娘は高音と低音を混ぜた味のある音楽を奏で始めた。それは深く深く、皆の心を洗い流すよう綺麗な歌声で癒してくれる。 僕らは美味しい食事、たまにお酒を飲みながら夜を楽しむ。 そして夜も更けたころ、誰かの声が響いた。 皆の驚くような声、そして指差す様子に促されて目を凝らすと、怪物カリュブディスは真っ白に染まっていた。さてはシャーリーが……などと思っている間に、バキ、バキ、と亀裂の音を響かせ、やがては海へと溶けてゆく。 それさえも皆にとっては良いことだと映ったらしく、一層の歓声、そして拍手喝采が周囲へと響いた。 やあ、賑やかな夜だったね。 観光地なのだから、これくらい明るいほうが僕らとしても嬉しいよ。 その後は、はしゃぐマリーを連れて漁村の味を楽しませてもらい、そして一緒に踊るという良い思い出を残すことが出来た。 ただ気になるのは、ウリドラの姿をけっきょく見かけなかったことか。