次の日、俺は馬車に乗らず護衛の三人と共に馬車の前を歩いていた。当然だが、不可視の牢獄を張っている。そして気がついたのが、昨日まではぐぐぐっと押して動かすような感覚だった不可視の牢獄が、空間座標指定エリアポインティングを利用する事により自分の座標と連動して動くようになったのでストレスフリーになっている。スムーズどころか手足のように不可視の牢獄を動かせるので、思い通りに動くラジコンのような感覚である。試しにそこらへんにいた魔物に拳大の不可視の牢獄を勢いよくぶつけてみると、頭がはじけとんだ。そして俺は吐いた。いやさ、だってまさか頭がはじけ飛ぶなんてグロ映像を遠目ながら見るとは思わなかったんだもん。そして俺はこの世界に来て初めて魔物を殺めたのだ。見た目は蜥蜴のような姿だった。罪悪感が心の隅から隅までを襲う。すまん。『レベルが 7 になりました』ああ、またレベルが上がってしまった。すまん。だが、これもこの世界の道理なのだ。もう何体目になるかわからないが、生物の頭を潰して殺すという行為への抵抗は半端が無い。できればゴーレムなんかの無生物をと願いたいが、おあいにく様ここはまだ爬虫類ゾーンである。三本腕が生えている蛇、二足歩行の蜥蜴、翼の生えたイグアナなどなど常識で考えてはいけない生物の宝庫だ。「それにしても主君歩いていて平気なのか?」「ああ、虫じゃなきゃ大丈夫だ。ただ、まだ相手の頭を潰すって行為に抵抗があるな」「でもそうしなきゃ私達は生活が出来ないからな。それに、敵を殺す以上いずれ死ぬ覚悟も出来ている」「流石。俺は死ぬ覚悟なんてまだまだだ。いかに死なないかしか考えられねえよ」その為に、こうして安全な位置からレベルを上げさせてもらっているのだ。生物を殺す。その行為自体は割り切れる。ここは異世界で元の世界と比べて危険が多いのだから。ただ、毎度グロく殺すしかないという事に抵抗があるのだ。今俺に出来る事は不可視の牢獄で潰すか、薄くして切り裂くかのどちらかである。だが、どういうわけかぶつけても全く効かない敵もいる。装甲が硬いのか、それとも全身が武器扱いだと防御としての効果を発揮してしまうのかわからないが、弱所を狙うとするとやはり頭になるのだ。そして毎度吐く。見たくないのに気にし始めると結局見てしまうのだ。だがそれが相手を殺したという事への礼儀なのだろう。その事実を受け入れなければいけないのだろう。「また吐いてんの?」「ああ、やはりまだ早いんじゃないだろうか」「いいじゃない。楽してレベルが上がるなら上げといた方が得だもの」「そうっすよ。私達のPTには遠距離攻撃がなかったっすからあるとこうも楽だってわかるっすしね」「ただ突然敵の頭がはじけるのはちょっと怖いわよね」「っすね。でもご主人のことだから返り血とかかからない距離でぶつけてくれてるっすよ」「まあな……。この距離でもきついのに、至近距離で返り血浴びながら頭が潰れるのを見るとか俺ならトラウマ確定だからな」「それでどれくらい上がった?」「今レベル7だ」「早いわね。まあこの辺りは初心冒険者が狩りに来るようなところでもないし、当然かしら」「パワーレベリングっすね! ご主人は冒険者登録してないから大丈夫っすけど、レベル5までしか本来なら出来ない事っす」「あ、ほらまた出てきたぞ」アイナが言うと街道のわき道から熊かと思うほど大きな蜥蜴が現れた。当然目立つ馬車に気がつきこちらに猛然と向かってくる。「懲りないわね。流石知性も理性も無い魔物よね」「理性と知性があったら魔族っすよ。こんなところで魔族とご対面は絶対にごめんっす」「わかってるわよ。主様を守りながら魔族とだなんて、ごめんこうむるわ」「それでもご主人はきっちり守って逃がすソルテたんでしたっす」「うるっさいわよ。あんたもでしょうが!」「っすね。ほら来たっすよ!」「レンゲブロック!」「ほいっす」