エンジンをかけ、ハンドルを握るといつものように僕は安全運転をする。 急いでも何も良いことは無いし、もし事故でもおこしたら「会社をサボって事故った奴」と指差されてしまうからね。 なので、行きと同じように明るい音楽が車内に流れていても、ご機嫌そうなエルフさんの鼻歌が聞こえても、車の速度メーターは揺ぎ無い。 しかし気になるのは、何でもポンポン生み出せるウリドラが、後部座席の窓へカーテンを取り付けたことかな。 不思議に思っていると、隣ではなく後ろから少女の声が聞こえてくる。「んー、かき氷って甘くてシャキシャキして美味しー。シャーリーも食べるかしら?」 こくこくと半透明をした彼女は頷き、とても食べたいらしく手を握って待ち構える。だけどイチゴ色のかき氷は「あーん」という可愛らしい声と共に、彼女ではなく僕の口へ入れられてゆく。もちろん楽しめるのは冷たさだけの無味無臭だ。 その代わりシャーリーはたまらなそうに目をつむり、シャキッとする冷たさ、そして子供受けのするイチゴ味を楽しめる。 不思議だなあ。僕の肩あたりをぎゅっと握っているけれど、そこを通じて味覚も向こうへ移っているのかな。「うむうむ、かき氷は夏にぴったりのデザートじゃなあ。この幸せを知らぬ者など、この日本におらぬじゃろう」 ええと、僕は無味無臭なので、幸せとやらを味わえていないからね? いつの間にやらマリーも後部座席へ移っており、麦わら帽子だけ置かれた助手席になんとなく寂しい思いをしてしまう。なのでたとえ無味無臭でも、すぐ横から顔を覗かせ「食べて」とスプーンを近づけてくれるのは嬉しい。