嵐の後の何とやら、か。 豪勢な夕食は女将さんらにより片づけられており、見回した居間はすっかり元通りの綺麗なものだ。 しかし、まるでこたつへ潜るようマリーは座椅子へと半ば埋もれており、魔導竜に至っては畳へ寝そべってイビキをかいている。おいたわしい、の一言だ。 先ほどまでたくさんの美味しい食事、そしてビールや地酒を皆は楽しんでくれた。どうやら温泉宿のおもてなしというのは新鮮だったらしく、丁寧な応対、広く快適な温泉、そして上げ膳据え膳という文句なしの空間をすっかりと堪能していた。 だからこそ二人はリラックスしきった寝顔をし、わずかな笑みを浮かべているのだろう。 しかし、この格好は如何なものか。浴衣姿で大の字になって寝るというのは、魔導竜の威厳を損なってしまうのではないだろうか。 こぼれそうな胸元はギリギリの所で布地が支えているものの、見ている僕のほうがハラハラしてしまう。ぼろっとこぼれたりなどしたら、きっと大惨事だ。 美女であるのはもちろん間違い無い。しかし、露にされた太ももは、恐らく浴衣としてあるべき格好では無い。「さて、この二人をどうにか布団まで運ばないと」 華奢なマリーはともかく、ウリドラはすこし大変そうだ。見ないように触れないようにしたいけれど……たぶん無理だな、これは。 どうやっても色気の強い肌に触れてしまうし、かといってこのまま放置したら風邪を――ひかないか――僕らだけで夢の世界へ旅立ったことを、後でねちねちと怒られてしまう。 そのように悩んでいると、背中からするりと何かが抜け出す感じがした。先ほどまで宿の人がいたので、避難するよう僕の身体へ憑依をしていたシャーリーだ。 振り返ればふわりと宙へ浮く女性がおり、幽霊らしく身体を半透明にさせていた。「ああ、仲間がいた! よかった、僕だけ取り残されたように思っていたよ」 頼もしい仲間から、くすりと笑われた。 彼女は明るい色をした金髪を後ろへゆわいており、大きな青空色の瞳をこちらへ向けている。ぐっと握るコブシは「任せてください」という意味なのかな。すると彼女なら酔っ払いを運ぶことができるのだろうか。